詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

2020-01-01から1年間の記事一覧

戯曲「ツチノコ」一三 & エッセー

エッセー GAFAという世界国家 (一) 太平洋の底には、太平洋プレートやフィリピン海プレートと呼ばれる巨大な岩盤があって、日本列島の下に年間七、八センチほどのスピードで沈み込んでいる。日本の土台はこの軋轢に耐えられなくなると、撥ね返って大き…

戯曲「ツチノコ」一二 & 詩

詩 理想郷 僕は未来の夢を見た 北京に置かれた一台のAIが この星のすべてを動かしていた 巷で活動するロボットたちは そのAIを「将軍様」と呼んでいた 彼らは将軍様の制御で働いていた 人間はすべての労働から解放された いや、すべての労働から疎外され…

戯曲「ツチノコ」一一 & 詩

詩 自殺者への挽歌 生きていることは偶然に過ぎないのに なぜお前は必然のように死んだのだろう 人々はトビウオのように蒼い海原から舞い上がり たちまち空の重みに耐えかねて 深海に戻っていく 嗚呼かつて誰も答えてくれなかった海の底には 忘却の川から流…

戯曲「ツチノコ」一〇 & 詩

詩 救命びとの心 気付いてみると 私の心は社会が所有し 社会が責務を課していたのだ 私の心は社会が監視し 社会がコントロールしていたのだ 肉体は朝から晩まで苛酷な戦いを強いられ 救われたわずかばかりの命で 死ぬほど疲れた心を養わなければならないのだ…

戯曲「ツチノコ」九 & 詩

詩 ハンスト・エレジー 僕はレストランでステーキを頬張りながら あの断食芸人のことを思い浮かべているのだ なぜ死ぬまで断食を続けなければならなかったのだろう きっとあいつの体は純粋で 異物を体内に取り込みたくはなかったに違いない おそらくあいつは…

戯曲「ツチノコ」七・八 & 詩

詩 コロナ男の告白 私がキヤツに罹ったとき 体調も悪くなかったので タコ部屋から飛び出して 観光旅行に出かけました 私は子供の頃から 人のことなどどうでもよかった 自分のことしか興味がないし 誰だってそうだと思ったのです きっとほかの連中だって 人の…

戯曲「ツチノコ」六 & 詩

詩 ゴミ男の告白 あるとき私の鼻の穴に一匹のハエが飛び込んだのです ハエは一日ほど生きていて鼻の中を這いずり回っていましたが とうとう力尽きて胃袋のほうへ落ちていきました そのときから私の心にハエの魂が宿るようになりました 私の嗅覚はいままで親…

戯曲「ツチノコ」四・五 & 詩 & エッセー

詩 亡き父へ あなたが私に失望していたように 私はあなたを軽視していた、だが…… あなたが私を普通に愛していたように 私はあなたを普通に愛していた 対話は浅くありきたりのもので 地上で飛び交う雑音の一部だった お互いの心は植物細胞のように 硬いセルロ…

戯曲「ツチノコ」(一~三)& エッセー

エッセー 「グロテスク」は未来を滅ぼす 北米には、アーミッシュと呼ばれるクリスチャン・グループの住む農村が点在している。プロテスタントの一派で20万人以上はいると言われ、18世紀に入植した当時の生活様式を頑なに守って、電気やガス、電話などの文明…

アバター殺人事件(全文)& エッセー

エッセー 多様性って何? 10月の国会答弁で、菅総理は日本学術会議会員の任命拒否の理由として、「多様性が大事」と発言した。会員は年齢や出身、大学などに偏りがあるのはいけないとし、会員の45%が、いわゆる「旧帝国大学」に所属するなど偏りが見られ、…

アバター殺人事件(六)& エッセー

アバター殺人事件(六) 六 ドッペル夫婦というと、ガラスケースの中でうろうろしていると思いきや、パチンと消えてしまい、奥の秘密部屋から二人の若い男女が出てきた。ドッペル夫婦の声を担当していた物まね上手な連中だ。宇宙からやってきた異星人という…

アバター殺人事件(五)& 詩

詩 美しい五月に 難病で死んでいく彼は、いつも若い奥さんに話していた 僕は千人のアバターでできていて その一人として地球に生まれたんだ ほかの九百九十九人は宇宙のあちこちに散らばっていて そのうち九人は僕と同じ病気に罹っている けれど残りの九百九…

アバター殺人事件(四)& エッセー

アバター殺人事件(四) 四 三人が通された部屋は迷路のようなトンネルの奥深くにあった。部屋の中には、あの下町のオフィスビルにあったような治療用の寝椅子が三台置かれていて、あのときのように三人は仰向けに寝て、頭部を筒の中に入れた。筒に埋め込ま…

アバター殺人事件(三)& 詩

詩 異質の感性 こちら側の感性は あちら側の感性の吐き出す汚水に流され 丸い油球となって漣に揉まれ漂うのだ 嗚呼、永遠に溶け入ることはできない芳香油よ お前は泥水に転がされながら身を丸くして クルクルと目を回しながらも必死に我慢し どこに漂うか分…

アバター殺人事件(二)& エッセー

アバター殺人事件(二) 二 神田界隈の神田川沿いに小さなマンションがあって、その三階が「宇宙友好協会」の事務所だ。ドアを開けたのはエリナ、その後ろに見覚えのある顔がいたので一瞬ポカンとしながら凝視し、ワンテンポ遅れてアアアと言葉にもならない…

アバター殺人事件(一)& 詩

詩 理想の女(ひと) ある日街角を歩いていると 前方から素敵な熟年女性がやって来て 僕の前で止まって目を大きく見開き おどおどしながら話しかけてきた 私のことを憶えていらっしゃる? 僕は戸惑いながら必死に思い出そうとしたが 彼女はそんな僕を気遣って…

抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」(全文)& 詩

詩 悪疫 津々浦々の街角で 死神がお前の目の前を横切り 笑いながらウィンクして カウンターをカチャリと押し 腐った肺腑を振り絞って 汚れた吐息を吹きかける 「時短」という名のナノチューブが お前の顔に降りかかり お前は悪びれもせず貪欲に パクリと飲み…

抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」最終 & エッセー

抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」最終 八 ターゲット順番決定秘密パーティー (日本妻とハワイ人を除くすべての出演者、コンパニオンがシャンパンを片手に出席) 議長 みなさん、すべての選挙運動は昨日で終わりました。ケイマン諸島への振…

抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」六・七 & 詩

詩 もうひとつのアナタ 好きなのはアナタじゃないわ 心の端っこに隠れている もうひとつのアナタ 大きなアナタの影で縮こまっている小さなアナタ アナタがいつも隠そうとしている惨めなアナタ 暗くてジメジメしたナメクジのようなアナタ 私はどうしてそんな…

抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」四・五 & 詩

詩 地球の厄介者 人間が地球にいなかったら 生き物はみんな自然に溶け込んでいたさ それらは自然の一部として 自然に素直な心を委ねていたんだ 人間は地球から生まれたけど ひょんなことから考えることを始めて 自然の一部であることを忘れて厄介者となり 自…

抱腹絶倒悲劇「こうして第三次世界大戦は始まった」一・二・三 & 詩

詩 八月九日 (戦争レクイエムより) ずっとずっと昔の今日 学校の真上で爆弾が炸裂し 僕たちの体は蒸発して成層圏に舞い上がり 心だけが溶けた窓ガラスに捕まって 小さなビー玉になって灰の中に埋もれたんだ この厄介物が板ガラスだったころ ガラス越しに編…

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」(全文)& エッセー

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」 一 (ロボット清掃会社の会議室。長テーブルに事務椅子、装飾品は一切ない簡素なデザイン。出席者の全員がロボットで、テーブルの上にはお茶の代わりに各自一つずつ油差しが置かれ、ロボットたちは時たま口や鼻、首、手首…

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」(最終)& エッセー

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」(最終) 九 社長室 (大家をはじめ社長、専務、部長、課長が集まり、大きなダンボール箱を囲んでいる) 大家 コワ! これがその、自爆ロボットかい? 社長 さようでございます。テロリスト集団から入手いたしました。禁制…

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」七・八 & 詩

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」七・八 七 鬱蒼とした庭 (女たち三人が植木職人の恰好で、斧や電動ノコなどで木を倒している) 主任女 さあさあ、大家は遠くに住んでいるから、バッサバッサ気兼ねなくやってちょうだい。この森を造花の森に換えるのよ。落…

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」五・六 & 詩

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」五・六 五 マンション共用部の廊下 主任男 (三号を睨み付け)君はお庭にいる女主任が手に付いたクソを美味そうに舐めているのを見て、軽蔑的な眼差しを注いでいるな? 三号 とんでもございません。うらやましい限りで。 主…

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社三・四 & 詩

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社三・四 三 (築五○年の老朽化マンション前に全員集合。新入社員全員作業衣、番号のゼッケンを持っている) 主任男 さて、この古い賃貸マンションが君たちの研修現場だ。さあ、ここで着替えてください。 六号 主任、ここはお玄…

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」& 詩

抱腹絶倒悲劇「ロボット清掃会社」 一 (ロボット清掃会社の会議室。長テーブルに事務椅子、装飾品は一切ない簡素なデザイン。出席者の全員がロボットで、テーブルの上にはお茶の代わりに各自一つずつ油差しが置かれ、ロボットたちは時たま口や鼻、首、手首…

ホラー「線虫」(全文) & 詩

詩 あちらの感性たちへ 僕は一割にも満たないこちらの感性で君たちを見ている 遠足の手引きの簡単な漢字が読めなかった無教養な先生を 大笑いで辱めた九割方のあっちの感性たちよ 君らにとって人生の辛さを忘れる手段は 馬鹿笑いだけなのがさびしい限りだ 怒…

ホラー「線虫」十四・十五 & エッセー

ホラー「線虫」十四・十五 十四 武藤と音羽は、町の事態を早急に伝えようと、放置されていた車を使ってゴーストタウンと化した琴名町から逃れ、隣町の警察に駆け込むことにした。日暮れまでは二時間しかない。日が暮れたら原始時代の哺乳類よろしく、線虫人…

ホラー「線虫」十三 & 詩

詩 形状記憶遺伝子 俺が発見したのは 形状記憶遺伝子という頑固者 生まれたときは真っ直ぐだった いろんな奴らがからかい半分に指先でこねくり回し グニャグニャに捩じられちまった ところが何を勘違いしたものか 心も体もそいつが基本と思い込んじまって 若…