詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

2020-01-01から1年間の記事一覧

ホラー「線虫」十一・十二 & 詩

詩 宇宙の切れ端 (ある宗教団体へのプロテスト) ある日 宇宙の果てから 不可解な精神の断片が臓腑に飛び込んできた そいつは大きな球体の一パーセントにも満たない欠片で どうやら欠伸をしたときに飲み込んでしまった それでもそいつは私を憂鬱にさせるに…

ホラー「線虫」十 & 詩

詩 不揃いの果実に捧げる挽歌 お前ら生まれたばかりの醜い果実は 長い長いベルトコンベアの上に乗せられて 行き着く先まで運ばれていくのだ 途中で転がり落ちないように 狭い狭い箱の中にぎっしり無理やり押し込まれ 無鉄砲な体は押しつぶされ曲げられ 型に…

ホラー「線虫」八・九 & 詩

詩 人生は戦いである この世に飛び出たとき 同類の泣き声が耳に障り 敵も同時に生まれたことを知った 母親の愛情を独占するため 兄弟姉妹との戦いが始まった 学校に入ると受験競争が始まり 友達は敵ともなった 会社に入れば出世のために 多くの同僚を蹴落と…

ホラー「線虫」七 & エッセー

ホラー「線虫」七 七 病院から戻ったときは、すでに夕方の六時を過ぎていた。武藤は近所の店で買った弁当をちゃぶ台の上に置き、お茶を飲もうとやかんの水を沸かした。沸騰したところで火を止めると、チャイムが鳴った。 「どなたですか?」 「舞です」 顔か…

ホラー「線虫」六 & 詩

詩 新興住宅街 だだっ広い農地の主が死に 住宅街ができた どれも安普請だが外壁は綺麗だった 道も植え込みもそれなりに美しかった 駅から遠いのにけっこうの値段で売り出した 小金持ちたちが長期ローンを組んで住み着いた 一年後に悪疫が流行って不景気がや…

ホラー「線虫」五 & 詩

詩 正義のために 神のために 世界のために 民族のために 国家のために 悪を殺そう 部族のために 一族のために 家族のために 私のために 悪を追い出そう みんなのために 正義をつくり 悪を滅ぼそう 正義ができたら 悪をつくり 悪を滅ぼそう みんなで正義をか…

ホラー「線虫」四 & 詩

詩 爆弾?協奏曲(ウィル・フィル感染楽団演奏) 嗚呼ノーベルが生きてたなら なんて嘆いてくれるだろう 俺はとうとう成功したぜ ダイナマイトの数万倍も恐ろしい発明 世界中の爆弾を一気にぶっ放す特殊な電波発信機 十ドル札と一緒にポケットにねじ込み 世界…

ロボ・パラダイス(全文)& 詩

詩 イデアーレ わがままな夢想たち 淡い色した欲望の結晶たち 記憶に残らないほどの昔から 想像も付かない死の瞬間まで 夢の中の女たちは美しかった 陽炎のような彼女たちを思いながら 僕はオナニーに耽った 彼女たちにからかわれながら齢を重ね 彼女たちを…

ホラー「線虫」三 & 詩

詩 収縮をはじめた宇宙 遠い未来 恐らく数千年も先のことだ その先の未来は過去であるというおかしな事態が発生した 膨張する宇宙は宇宙の果ての壁にぶつかって 本能的に収縮をはじめたに違いなかった 人々は宇宙が巨大なアメーバであることを発見したのだ …

ホラー「線虫」一、二 & 詩

詩 街角霊(怨霊詩集より) 私 あのときの一人です 夢を楽しむ明るい少女 たくさん花束ありがとう 知らない私に高価な花を 覚えていますよ一人ひとり やさしい方たち見かけます でも 私のことはうわの空 忘れてしまった悲しい記憶 いちど花をくれたんだから …

ロボ・パラダイス(最終)& 詩

詩 嗚呼ナガサキ 遠くの遠くの彼方から 冷ややかな眼差しが 数え切れないニュートリノに紛れて 殺戮の焦土に降り注ぐ そうだこの冷たい粒子は にわか作りの放射能の数百倍も 私たちを侵し続けているのだ 操られている 踊り狂わされている 気付いたときが終わ…

ロボ・パラダイス(二十七)& 詩

詩 牙 昔は生きていくために必要だったのに 今は生きていくために捨ててしまった 一振りで事済む野獣の長い刀だ 象牙の白に染み入る鮮血の赤は滝をのぼる錦鯉 それは昔 食い物を奪うための凶器 それは昔 雌を奪うための一物 君たちはどんよりしたスモッグの…

ロボ・パラダイス(二十六)& 詩

詩 海岸に打ち上げられた男の夢想 かつてポセイドンが私に語りかけたことがある それは美しい松原のある砂浜に寝転がっていたとき 目蓋の裏の血潮がさっと引いて辺りが真っ暗になり 驚いて目を開けたのだけれど それは日蝕と異なる怪奇現象だった ガリガリに…

ロボ・パラダイス(二十五)& 詩

詩 休戦 灰色の希望は 虹色の夢想と違い 慎ましやかなものだ 誰もが生き残れる 小指大の安穏… ゲルニカ色とは異なる 暁闇のわずかな赤みは 灰に落としてしまった 幸せの欠片 後ろを振り向かず 前の方角にひとまず半歩 重い義足に灰を被らせ 杖を使って倒れる…

ロボ・パラダイス(二十四)& 詩

詩 たわし君の唄 めげちまったら たわし君を思い出そう あいつの体はハリネズミ でもプロテクターなんかじゃない あいつを買ったご主人様が 容赦なく背中を引っつかみ 汚れ仕事のフロンティアへと 力任せにグイグイ押し当てるのさ あいつはキュウキュウと毛…

ロボ・パラダイス(二十三)& 詩

詩 都会の野生人 あるとき太古の昔から 野蛮な男が都会にやってきた 腹が減っていたので八百屋に入り バナナをムシャムシャ食べてしまった おまわりが二人やってきて捕まえて 小さな檻の中に入れてしまった イノシシのように臭かったので 医者が呼ばれて消毒…

ロボ・パラダイス(二十二)& 詩

詩 フランス料理の極意 モンマルトルの汚らしい袋小路に ★マイナス三つの 客の入らない料理屋がある 時たま蜘蛛の巣にかかった蛾のように 日本人が迷い込むと 蜘蛛のように尻の太ったガルソンがやってきて 薦める料理が カオスという名のビーフシチュー この…

ロボ・パラダイス(二十一)& 詩

鎮根歌Ⅰ 聖者 村人は彼を「木の聖者」と讃えた 聖者は木になろうとしていた 拡げた両手はそのまま枝となって固まった 大樹にはなりえない貧弱な老木 しかし風雨に耐えながら何年も朽ちることはなかった 悟った者は死ぬ必要もないだろう 死すべきときに迎えが…

ロボ・パラダイス(二十)& 詩

詩 アリの告白 俺はワン・オブ・ゼムの働きアリだ しかし母親は選ばれし女 女王アリ 俺は高貴な王族の血筋を受け継いでいるが ほかの有象無象もそう言い張るのだから意味もない しかしおれはやつらと少しばかり違う 少しばかり頭がおかしいという少しばかり…

ロボ・パラダイス(十九)& 詩

ロボ・パラダイス(十九) (十九) フランドルはヨカナーンの執務室に招かれ、二人だけの作戦会議が行われた。 「君は殺されたが、ロボットになってここにいる。この私もそうだ。不思議なことだと思わないか?」 「きわめて不思議だ。民族浄化を進める連中…

ロボ・パラダイス(十八)& 詩

ロボ・パラダイス(十八) (十八) 強制収容所とロボ・パラダイスを繋ぐ道路はなかった。それは、この収容所が造られたことに関連していた。ここに収容されているロボたちは、ある支分国家で迫害を受けている民族なのだ。彼らは民族運動を展開したため、地…

ロボ・パラダイス(十七)& 詩

ロボ・パラダイス(十七) (十七) ジミーとグレース、トニーの三人は、長年放置されていた月面探索車を修理して太陽電池システムを復活させ、ある場所に向かって走らせていた。そこは地球連邦政府が最近建設したパーソナルロボの強制収容所第一号で、ロボ…

ロボ・パラダイス(十六)& 詩

ロボ・パラダイス(十六) (十六) 田島は秘密会議に出席するため、放送局に出向いた。会議室はあらゆる電波から遮断されていて、入る前には入念なボディチェックがなされる。公務員三人と、プロデューサ、ディレクタがすでに着席していて、田島を見ると全…