詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

2021-01-01から1年間の記事一覧

エッセー「 武士道と戦争」& 詩

エッセー武士道と戦争 日本人は「武士道」という言葉に凛々しさや頼もしさを感じるようだ。いざ戦争になれば、頼るのは兵隊さんなのだから、当然のことだろう。彼らが武士道の精神を投げ出し、背を向けて逃げ出したら、国は滅びてしまう。 しかし、「武士道…

エッセー「音楽的人間」と「画家的人間」~キム・ヨナの場合 & 詩ほか

エッセー「音楽的人間」と「画家的人間」~キム・ヨナの場合 クラシック界の歴史的名指揮者ブルーノ・ワルター(1876~1962年)は自伝の中で、人間は「音楽的人間」と「画家的人間」に分けられると記している。なんでも彼が音楽総監督をしていた歌劇場に専属…

エッセー「化石賞」VS「ノーベル賞」 & 詩

詩霊子Ⅱ 夕日が紅茶色に輝いていた霊子は僕の腕に手を回し浜の先の磯に誘ったゴツゴツした岩に座って軽い霊子を膝に乗せ、キスを求める爽やかな冷気がクルクルと僕の口先をからかい海の方へと逃げていった 君はどうして唇が冷たいの?あなたの唇が熱いのはあ…

エッセー「ミルフィーユとディベート」& 奇譚童話「草原の光」二十 & 詩

詩パリジェンヌ(戦争レクイエムより) うんざりしたコロンの臭いも突き刺さる毒々しい言葉も小馬鹿にしたような眼差しだって突然の炸裂音と一緒にどこかほかの宇宙に飛んじまった君の彼女が残したものは紙吹雪のような無数の肉片と香水よりは増しな血の香り…

エッセー「他人の命について」 & 奇譚童話「草原の光」十九 & 詩

詩天空の花園 人生で一度だけこの世のものとは思えないほどの美しい花々を見たことがあるそれはアルプスの高原に広がる高山植物の群生だった一センチにも満たない花たちがそよ風に揺れながら年に一度の装いを競い合っていた汚れのない空気が花びらに溶け込み…

エッセー「 国家暴走抑止力としての『天皇制』」& 奇譚童話「草原の光」十八 & 詩

詩霊子 夕刻に近くの浜辺を散策していると霊子は背後から忍び足でやってきて僕の左脇にピッタリとくっ付き透き通るような華奢な腕を腰に絡めた 僕は思わず彼女の透明な頬に口づけするが爽やかな潮の香りが鼻の中に広がりそこから肺を通して体全体に拡散しこ…

奇譚童話「草原の光」十七 & 詩

詩海辺の英霊(戦争レクイエムより) 水平線はるか彼方にかつて生まれた天国があった嗚呼我が故郷 あふれ出る狂騒いまは潮風囁く珊瑚の浜辺に我がしゃれこうべは白砂と化し平穏の時を波と戯れる生き抜くための戦いを潤す黒赤く膨れた血袋は朽ち罪深き心もろ…

エッセー 「真鍋淑郎氏のノーベル賞受賞で思ったこと」& 詩 &奇譚童話「草原の光」十六

エッセー真鍋淑郎氏のノーベル賞受賞で思ったこと 今年のノーベル物理学賞に真鍋淑郎さんが選ばれた。真鍋さんは地球温暖化研究の先駆的存在で、気象学という人間の生活に直結する分野の人が物理学賞を受賞すること自体が驚きだった。いままでの物理学賞は、…

奇譚童話「草原の光」 十五 & 詩

詩野に咲く一輪の花 地下道の石壁の中にはアンモナイトたちの無念さが塗り込められていたさらけ出された地層の奥深く草食恐竜たちは食われる恐怖で石となった自然の落とし穴の暗闇から落ちたカモシカの叫びが木霊となった底なし沼の底にはなぜか石油が眠って…

エッセー「シンギュラリティと愛護精神」& 詩 & 奇譚童話「草原の光」十四

詩嗚呼 女 妄想の中に現われ現実の中に消える理想という衣を纏う その女たち刈り落とされる爪のように消えては現われ 現われては消える あるいは泡 不気味な深海から 浮き出る魔性幻影だが 心を激しく動かす なまなましい希求をはぐくみ諦念の盾を捨て 思い…

奇譚童話「草原の光」 十三 & 詩

詩 ジハード 生きているのが地獄なら 死んだほうがましだろう 戦いで死ねば天国に行けるのなら 誰もが戦おうと思うだろう 荒地の畑で採れるわずかな作物を食べ 死ぬまで生きるために暮らすのなら 麻薬の花を摘んで 少しは楽になろうと思うだろう 苦しければ…

奇譚童話「草原の光」十二 & 詩

詩夢見るゆえに君在り 謎ばかりの宇宙の中で不可知の怖さに目を瞑り運命の流れに翻弄されまいと確かなものにしがみ付くがそいつは巨木のように頑丈でいてしょせんは宇宙に漂う根無し草 詩人と天文学者は大口開けて宇宙を吸い込むから馬鹿にされるポンと軽薄…

奇譚童話「草原の光」十一 & エッセー & 詩

エッセー 「民主主義」という幻想 アフガニスタンの混乱によって、民主主義を世界に広めようとするアメリカの理想はもろくも崩れ去ってしまった。かつての日本が、神道(現人神)を柱にした独裁政権であったように、アフガニスタンには結局民主主義は広がら…

奇譚童話「草原の光」十 & エッセー & 詩

エッセー 「白馬の王子様」考 「白馬の王子様」は、結婚前の女性にとっての理想の男性像を言い表す言葉だそうだが、これにあまり固執し過ぎると周りの男性にもの足りなさを感じて、いつまでも結婚できないことになってしまうだろう。しかし昨今は昔と違って…

エッセー & 詩

エッセー 社会アナーキーと医療アナーキー(カブールと東京) アフガニスタンでは民主政権がタリバンとの戦いに敗れ、首都カブールは混乱状態に陥っている。一方で日本は新型コロナウイルスとの戦いに敗れつつあり、首都東京では医療崩壊が進んでいる。前者…

奇譚童話「草原の光」九 & 詩 & エッセー

詩 「地獄の釜の蓋」という雑花 私は詩を書くとき 両肘を机に突いて 両掌で髪を掻上げ 顔をうつむかせて 両目を緩く閉じる すると得体の知れない古井戸が現われ 覗きこんでいるような錯覚に陥るのだ 目蓋を通した光が埃となって邪魔をし 死のもたらす暗闇で…

奇譚童話「草原の光」 八 & 詩

詩 英霊に捧げる詩(うた) (戦争レクイエムより) ある時茫々とした古の戦場を歩いていると 無数の英霊たちが草の根っこにしがみ付き 軽々しい霊魂を浮かせてしまわないように 必死に踏ん張っている姿を見て驚かされた 地球の自転は土屑となった幾多の魂を…

奇譚童話「草原の光」 七 & 詩 & エッセー

詩 ゴキブリとの対話 だいぶ昔、寂れた喫茶店に入ったとき 閑散とした店内のいたる所で 小形のゴキブリたちが我がもの顔で走り回っていた カウンターの女主人は、意にも介さぬ顔つきで 乾いた布で執拗にカップを磨いている どうやら奴らが目に入らないか 駆…

奇譚童話「草原の光」 六 & 詩

詩 「希望」という名のパスポート 行詰った神学者が自殺をした 案の定、地獄の使者がやって来て、深々とお辞儀をする やはり私の魂は神の所有物でしたか… 私はそれを確かめるために自ら命を絶ったのです 学者がため息を吐くと、使者はシニカルに笑い 馬鹿な…

奇譚童話「草原の光」五 & エッセー

エッセー アミメアリを超えよ! (社会におけるアポトーシスとネクローシス) 前回のエッセー『箱男と砂の女』では、多細胞社会の話をした。社会は単細胞である個人が寄り集まったリヴァイアサンのような多細胞の怪物だ。多細胞生物では、組織全体の機能性を…

奇譚童話「草原の光」四 & エッセー

エッセー 『箱男』と『砂の女』 地球に発生した最初の生き物は単細胞だった。それは、外界から隔絶するための細胞膜を持っていた、ということは、周りの環境から独立を宣言した最初の個体であったということだ。しかし、外界から栄養を貰わなければ死んでし…

童話「草原の光」三 & 詩

詩城(失恋色々より) その城壁はマトリョーシカのいちばん外側だその周りには敵を溺れさせる水が溢れているその殻を破ると次の殻が現われる入れ子構造それはアルマジロの外皮のように光り美しい敵視された人間の前で、城門は固く閉ざされ最初の門を突き破っ…

童話「草原の光」一、二 & 詩

詩ちょっとおかしな自由論 おめでたき人々、日本人よ君たちは中国の監視社会に怒ってるが自分自身が衆人環視の中で生きていることを知らない試しに素っ裸で往来を歩いてごらんよ直ぐに誰かが通報し、警察が飛んでくる一人ひとりが監視人人間以外の生き物は、…

小説「恐るべき詐欺師たち」(全文)& 詩

詩神の道化師 疫病が猛威を振るって人々は職を失い路頭に迷っている資本主義なんてシステムじゃ金欠症は菌血症とは反対に血中に黴菌も栄養も流れず死に至る病になっちまう嫌だね山口判事じゃあるまいし、…けれどいったい一文無しになることは絶望か?そいつ…

小説「恐るべき詐欺師たち」(最終)& 詩

詩 宇宙人待望論 (戦争レクイエムより) 昔、神が存在しなかったとき 男たちは力任せに人を殺し、強姦し、略奪を繰り返した 僭主たちは強引に他国へ侵攻し、町々を破壊し尽くした 悲嘆に暮れた多くの人々は平和を願い、幸福を望んだ そのとき、一人の男が、…

小説「恐るべき詐欺師たち」九 & 詩

詩 楽園 昔、氷に閉ざされた極北に 所有という概念のない人々がいた 男たちが凍った獲物を凍った広場に積み上げ 女たちが好きなだけ持って帰り 子供たちはナイフで肉片を削りながら腹を満たした 食い物といえば魚や海獣や鳥ぐらいだが、豊富で 生肉はビタミ…

小説「恐るべき詐欺師たち」一 & エッセー

エッセー 未来の裁判官 スポーツの世界では誤審の多さがいつも問題となり、スポーツ観戦の楽しみに水をかけてファンを消化不良にさせている。野球でも、主審の癖を知らないでピッチングしたら、四球の連続になりかねない。どう見てもストライクなのにボール…

小説「恐るべき詐欺師たち」二 & 詩

詩 アルカディア 人間が嫌いだといいながら 人間の中でしか生きていけない男が ある日発心して砂漠へ旅立った 何日も何日もラクダの背に乗って 茫漠とした砂の海をさまよいながら 人のいないアルカディアを探し続けた 一週間も旅をすると水筒の水も無くなり …

小説「恐るべき詐欺師たち」八 & 詩

詩 万引家族 ある日孤高の父が生活費に困り そうかといって借りる友もおらず 原始時代に戻ることを決心した 原始時代には 人々は狩猟生活を営み 命を繋いできた、と父は言う それは動物という獲物の生活を壊し 彼らの幸せを奪うことである しかし都会という…

小説「恐るべき詐欺師たち」七 & 詩

詩 赤い風船 (失恋色々より) 子供の頃 いじめっ子に破られた赤い風船に 落胆する少年の映画を見たことがある 街のいろんな所から仲間の風船が集まり 少年は彼らの紐を掴んでどこかに飛んでいった すこし大きくなって 僕の小さな手から逃げていった 赤い風…