詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

奇譚童話「草原の光」十 & エッセー & 詩

エッセー

「白馬の王子様」考

 

「白馬の王子様」は、結婚前の女性にとっての理想の男性像を言い表す言葉だそうだが、これにあまり固執し過ぎると周りの男性にもの足りなさを感じて、いつまでも結婚できないことになってしまうだろう。しかし昨今は昔と違って女性が自立できる時代なので、結婚に対する世間の意識も変わり、気に入った男性が見つからなければ一生独身でも構わないし、子供が欲しければ種だけもらって未婚の母になることもできる。

 

しかしこの「白馬の王子様」という言葉は、一昔前の女性の憬れのような気がしないわけでもない。まず美しい白馬に似合う男は美しくなければ様にならない。これは当然だろう。次に王子様というのは、位の高い人間で金持である。さらに、王国支配者の息子ならば武術にも長けて、ひ弱な存在の女性をしっかりと守ってくれるだろう。昔の女性はこんな男性にハグされて、その逞しい胸の中で顔をうずめて愉悦の涙を流してみたいと願ったに違いない。

 

ところが今の女性は、そんな弱い存在ではない。金持と結婚して豪勢な生活を送りたい心は今も変わらないだろうが、宝くじに当って億万長者になりたいと願う男性と同じこと。目的が金銭なら、昨今は男よりも稼ぎのいい女性はざらにいるので、自力で大金持ちになる可能性はある。特に欧米ではそうだし、日本でも女性の地位は向上してきているので、彼女たちはそれなりに強くなって男性化してきている。

 

それを象徴しているのが、男勝りの行動派女優が活躍するテレビドラマが増えてきていることだ。こんな現象は数十年前の欧米ではすでに起こっていて、例えば低音で喋る女優は魅力的だと感じる男たちが増えたのもその表れだったろう。もっと昔は体が大きなドイツ女性が、せめて声だけでも女っぽくと、長い声帯を短く使いながら鼻声のような感じで喋ったりしていたが、今では自然の流れで生来の低音ボイスで会話を楽しんでいる。コケットだとかコケティッシュだとかいうのは大昔に流行った死語で、そうした振る舞いの女性を気色悪いと感じる男性も多い。これは明らかにジェンダーレス化現象の一面だ。

 

しかし日本では男言葉、女言葉の弊害もあるし、未だに男性の前で可愛らしく、しかも少々バカっぽく子供のように喋ろうとする女性がいたりする(昔ほどではないが…)。本当は頭が良いのに、相手の男性と対等の会話を避けて一段低い位置に立とうとする。例えばミュージカルのオーディションなどでも、この歌手の声は太いので若いヒロインには相応しくない、などと審査員に言われたりする。若い女性は細く高く、優しい声を発すると思われている。これらは女性に対する世間的イメージの問題だろう。

 

つまり世間のイメージが、男女平等というメジャーでは欧米並みの数値には達していないことを表している。もちろん欧米だって財布を握っているのは夫だったり、妻を殴る奴もいたりするが、欧米と日本の国民全体の感性は違うという感じだ。森元総理の女性批判にも見られるように、概して日本の男たちは「女は何々だから」と、個人ではなく性別で括って批判する傾向が強い。そのことが、議員や会社役員になかなか女性が増えず、欧米並みにはなっていない原因なのだろう。実際に、男女平等に関して欧米先進国は日本に厳しい評価を下している。

 

仮に男の女性に抱く理想像が「白馬の王女様」だとしても、きっと日本の男は王女様がジーンズ姿で馬に跨っているのではなく、スカートでサイドサドル騎乗(横座り)している姿をイメージするに違いない。しかし、今ではスカートを穿かない女性も増えているので、若い男性がどうイメージするかは分からない(僕は若くないので)。

 

昔の女性が白日夢として見る「白馬の王子様」は、何かしら困っている彼女を王子様が助けるというストーリーに違いないが、古い男が見る「白馬の王女様」は、窮地に陥った王女様を助けるというストーリーだ。そこにはひ弱な女性と逞しい男性との差別化がきっちりしていた。僕は小学四年の頃、同級生にひ弱そうな美少年がいて、彼が海で溺れているのを助けるというストーリーの白日夢を良く見たものだ。それは僕の小説『ロボ・パラダイス』に書いているが、フロイトの言う「異性愛の前の同性愛」の時期だったからで、トーマス・マンの『ベニスに死す』的な稚児愛とは違う。その後すぐに僕は異性に関心を持つようになり、白日夢の相手は王子から王女に変わってしまった。

 

僕が何を言いたいかというと、今の若い女性にとって少女のときに夢見た「白馬の王子様」がどんなイメージかによって、将来も違ってくるのではないかということだ。これは男性の「白馬の王女様」も同じだろう。理想の夫婦像は、夫が妻を助けるのでもなく、妻が夫を助けるのでもなく、互いが相棒として助け合って生きていくものだ。夫の稼ぎに不満を持つ妻や、妻の育児に不満を持つ夫は古い世界の人間なのだ。夫の稼ぎが少なければ、妻が稼げばいいし、妻の育児が不満なら夫がすればいい。実際、妻が外で働き、夫が家事を担う家庭も増えているし、世間から後ろ指を指されるいわれもない。

 

現在は、世界的に見ても男女平等社会への移行期だと僕は思っている。真の男女平等社会で女性が男性と同等に仕事をするためには、男女の差なく同じ責務をこなさなければならないし、男と同じ感覚で男の同僚と助け合わなければならないだろう。大きな壁に直面したとき、女性であろうと撤退は許されず、自らが率先して登り切らなければならないだろう。失敗すれば、上司は男と変わりなく強い言葉で叱責するに違いない。当然のこと、成功すればどんどん昇級するだろう。彼女の能力次第では、女社長も夢ではない。

 

そんな社会が真の男女平等社会なら、若い男女の恋愛関係だって昔とは違うだろうし、少女もひ弱な「白馬の王子様」を救い出す夢を見るかもしれない。その時は、ひ弱な少年も「白馬の王女様」の厚い胸板に抱かれて泣くかもしれない。これは女性の男性化でも、男性の女性化でもなく、女と男の真の平等化現象の一つなのだ。当然のことだが、そうなれば、他のいろんな感性を持って生きている人々の平等化現象も促進されるに違いない。僕は「白馬の王子様」像が進化することを期待しているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

悔溜(くいだめ)掃除 

 

頭蓋骨の中は奥の奥のほう

ちょうど脊髄に向かって開いた

五百円玉くらいの穴の辺りだ

ラッキーな人生を送ったやつだって

糞の臭いプンプンの悔溜はあるものさ

俺の場合はしかし あふれ出ているところが人とは違う

満杯なんだ もう何十年も前から

ブルブル頭を振るわすとチャプチャプいって

周りの神経をまっ暗に汚染しちまう

車を運転しているときなんぞ

時たまそいつが瞼までヒタヒタとやって来て

急に手足を広げて通せんぼ

おどかすなよ 目くらましだ

俺は慌てて苦虫をかみつぶし

しかめっ面で思い切り さらにブルブル頭を振るわせる

するとそいつは耳の穴から外に出て お空の遠くに行っちまう

危うく人を轢くところだった

しかしどうしたわけか やつはちゃっかり戻っているのさ

不思議だよ 悔溜ってのは 溜まるばかりなんだから有象無象

 

俺はとうとうアタマに来て

整理しようと手を突っ込んだんだ

蛇使いがコブラを入れとくような汚い壺だ

危険は覚悟さ 素手でかき回すには勇気がいったぜ 

おかげで腕の付け根まで傷だらけになっちまった

しかしおかげで分かってきたのさ その正体

例えて言うならドライトマトのオリーブオイル漬け

カサブタ野郎が臭いアブラの中で

無数に積み重なっているんだからアブラカダブラ

下のほうは上の重みで癒着して 引っぺがすに苦労する

俺は一つ一つ強引に剥がして血みどろの戦い

まな板に乗せてみじん切りにするつもりだった

嗚呼しかし ドロドロなのさ 腐っている

その都度その都度 俺の人生を変えてくれたやつらなのに

面と向かうと 消えて無くなる 卑怯者め幽霊ども!

過去をかなぐり捨てるように生きてきたって

ケラケラ笑って首を出すんだ こいつらは…

確かに俺は へんてこな方向にばかり舵を切ったさ

で そっちへ行けばどうなった?

おなじさ おんなじさ きっとおんなじだ この俺様だもの

笑っちまうのは 書いて出さなかったラブレターの山

こんなものまでカサブタか 古代文明じゃあるまいし

トロイのヘレナの○○○ちゃん… クレオパトラの×××ちゃん…

荻窪の君のステキなオベベちゃん…

夢さ 夢なのさ きっと夢に違いない この俺様には

餓鬼の心を捨てきれずに死んでいく老いぼれの哀れさよ…

さらば後悔、さらば蒙昧… たかが人生 たかがクソジジイ!

 

 

 

 

奇譚童話「草原の光」

十 地底の国へ

 

 ヒカリがふるさとに戻ると、神殿の周りには二千匹のカメレオーネたちが集まってた。ジャクソンはヒカリを見るとすぐにやって来て、肩に登る。

「自分探しは終わったのかい?」

「うん。縄文爺さんが言うには、僕はエロニャンとモーロクを一つにするために、神様が使わした子供だって。だから僕は、地底に行くんだ」

神殿のエントランスには、先生とナオミ、ケント、ウニベルとステラが立ち話をしていた。その下の階段にはアマラとカマロを始め、エロニャンたちが腰を下ろしてネコ耳を彼らの方に向けている。

 

先生が心配してんのは、地下の国に地上の連中がいっぱい押し寄せたら、攻めて来たんだと思って、穴の入口をふさいでしまわないかってことだ。モーロクは地下の国なんで、一つしかない出入り口をふさがれちゃったら、もう二度と入ることはできない。で、臆病なモーロクを驚かさない方法を考えないといけないんだ。

「最初はカメレオーネたちを連れて行かないほうがいいかもしれないな」ってウニベルは言った。

「きっと地下の人は、あたしたちを見たことないでしょ」ってステラ。

 

「ヒカリ、こっちへおいで」って先生は手招きしたので、ヒカリはカメレオーネやエロニャンたちをかき分けて、先生の隣までやって来た。

「希望はこの子さ。ヒカリはカメレオーネとエロニャンを結ぶ架け橋なんだ。しかもヒカリは、ジャクソンとスネックとハンナと一心同体。地球がどうして出来たか知ってるかい。いろんな小さな星が重力で集まって、くっ付いて一つの丸い星になったのさ。最初は分かれてたけど、いまは一緒になって丸く収まった。いまじゃ生き物たちの天国だ。カメレオーネとエロニャンと三匹の動物が一つになったヒカリを新人類の第一号としてお披露目するのさ。四匹が一つになって、ヒカリという新人類を創っているんだ」

「今度はエロニャンとモーロクが一つになる番だね」ってヒカリも相槌を打つ。

「だけど、エロニャンの掟じゃ、エロニャンはあの火山に行っちゃいけないことになっているんだ」

カマロが口を挟んだ。

「僕は違うよ。僕のふるさとは半分草原でも、半分は地底さ。だから僕は地下のふるさとに行く権利があるんだ」

 ヒカリは胸を張って答えた。

 

 結局先生の提案で先遣隊を派遣することになったんだ。ヒカリとその仲間はもちろん、先生、ナオミ、ケント、それにステラとウニベルも先生の肩に乗って同行することになった。エロニャンたちは火山を恐れて、誰も行きたがらなかった。あの山に行くと、悪いことが起こると思ってるのさ。

 ヒカリたちはみんなの声援を受けて出発した。

「早く返事を持ってきてな。俺たちは待機してるよ」ってカメレオーネの誰か。

「太陽を浴びれば、子供たちもきっと目を覚ますわ」ってアマラも声援を送った。

 

(つづく)

 

 

 

 

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