詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

2021-01-01から1年間の記事一覧

小説「恐るべき詐欺師たち」六 & 詩

詩 ヤンゴンの街角で (失恋色々より) あるとき素敵な身なりの女性が街を歩いていると 道端にうずくまる物乞いから声を掛けられた 「奥様、いくらかのお恵みを……」 女性は通り過ぎようとして男を一瞥し 驚きのあまりに立ちすくんだ 男は恥ずかしそうに垢だ…

小説「恐るべき詐欺師たち」五 & エッセー

エッセー 入管法改正案について 今年二月に入管法改正案(出入国管理及び難民認定法の改正案)が閣議決定され、国会に提出された。これに対し、国連人権理事会が「移民の人権保護に関し国際的な人権基準を満たさないように見える」との書簡を公開した。改正…

小説「恐るべき詐欺師たち」四 & 詩

詩 老木と若者 (失恋色々より) 年老いた桜から枝が落ち 下で遊んでいた子供が死んだ 付近の老桜たちにも一斉に赤いテープが巻かれ 仲間ともども伐採されることになった すでに花は散り終え 赤いガクが血涙のようにポロポロと落ちてくる 何十年も人々を楽し…

小説「恐るべき詐欺師たち」三 & 詩

詩 パンデミック ひびだらけの地獄絵でも眺めるように 悪疫ごときは古の悲劇であったはず テカったパネルに映し出される死の舞踏は シズル感を伴うこともなく空回る わが家の周りはさらに静かで、老いた傍観者たちが潜んでいる 彼らは干魚をかじりながら、時…

戯曲「クリスタル・グローブ」(全文)& 詩

精霊劇クリスタル・グローブ 登場人物(被爆霊) 校長先生 春子先生 理科教師 太郎 清子 止夫(迷い霊) 美里 ヤンキー 廉 紀香 ライダー男 ライダー女 男(ストーカー)悪魔 男の子 女の子 一 南の島の浜に打ちあげられた小さなガラス玉の中 (美しい南国の…

戯曲「クリスタル・グローブ」(最終)& 詩

戯曲「クリスタル・グローブ」七・八 七 朝の海岸 (美里を除く全員が海岸の見える所に集まっている。夜が明け、金色に輝く陽光が全員を浮かび上がらせる。物陰で、天使に脱皮しつつある悪魔が様子を窺っている) 理科教師 (怨霊粒子をポケットから取り出し…

戯曲「クリスタル・グローブ」七 & 詩

戯曲「クリスタル・グローブ」七 七 放射能広場 (薄青白く光る広場。時たま放射線が霧箱のように飛び交う。美里は水の無い崩れた噴水池の縁に腰掛けて、小犬を撫ぜながら考え込んでいる。背後からストーカーが近寄り、暫く様子を窺う。後ろの物陰には、理科…

戯曲「クリスタル・グローブ」六 & 詩

詩 コンピュータの告白録 ぶっちゃけ生物的な快感はないんです その一点だけでも人間の感性じゃありません 人工五感はあります いや「入力」でいいんです 人間は脳内ホルモンが出て高揚しますが 僕は「アリ」「ナシ」信号で判断します 達観した禅僧みたいな…

戯曲「クリスタル・グローブ」五 & 詩

詩 ミラノの老女(戦争レクイエムより) 町外れの石畳の上 カチカチに凍った椅子に腰掛ける老女は 近くのバールで用を済ませる以外は 三六五日二四時間椅子から動こうとしない グロテスクにだって、それなりに理屈はあるというものさ 戦死した三人の息子が …

戯曲「クリスタル・グローブ」四 & 詩

詩 民主化運動 食い止めることのできない 大きな感情のうねりよ 正義という名のもとに 洪水となって広がっていく 傍観者たるお前は濁流に掛けられた板橋を 上手く渡っていかなければならない 手すりなどあるものか 頼りになるのは身のこなしと平衡感覚 飲み…

戯曲「クリスタル・グローブ」三 & 詩

詩宇宙人 ある日宇宙人に出会った裸で性器がなかった全身が鈍く光っていたあなたは生物ですかと聞いたら生物である必要性は? と問い返されたそれではあなたはロボットですかと聞いたらそんなことは瑣末なことだと笑い飛ばされたいいかね人間という猿よ昔か…

戯曲「クリスタル・グローブ」二 & エッセー

詩 河童嘆 ~命なんざ食うにも食えない代物だ 昔あるところに 河童に肝を抜かれそうになった爺さんが住んでいた 河童の話を聞くために 俺はその爺さんのところに行った 爺さんは肝をすっかり抜かれちまったように痩せていた ここにはもの好きが 河童の話を聞…

戯曲「クリスタル・グローブ」一 & エッセー

エッセー 悲観的進化論Ⅱ ―宇宙人の場合- 2017年に確認された恒星間天体「オウムアムア」は、太陽系の外からやって来て太陽を回り、再び太陽系外に去っていった。しかしこれがおかしな加速度を付けて太陽系から離れていったため、ハーバード大の二人の教授が…

ホラー「蛆女」& 詩

詩 Ideale ずっとずっと昔のこと 目覚めてみると 未来の妻が横で死んでいた 彼女の死に顔は美しかった それは芸術のカテゴリーに属する美しさだった それは外面だけの美しさでもなかった それは心から滲み出てくる香りだった そこには通俗的なものが一…

戯曲「ツチノコ」(全文)& エッセー

エッセー 悲観的進化論 ダーウィンに始まる「進化論」は、生物がその時々の環境に対応するために、その遺伝的形質を世代的に変化させていく様を示している。しかし、「進化」といってもそれは進歩ではなく、単なる変化に過ぎないのは、環境は進歩するもので…

戯曲「ツチノコ」(最終)& 詩

詩 独り舞台 俺はいま、地球というプレハブの舞台に立って おそらく奈落に落ちるまでの短い間 落ちるまいと必死に何かを演じているんだ 役柄については何も聞かされちゃいない 俺自身、誰かも思いつかない ただ一つ言えることは ほかの奴らも滑稽に何か演じ…

戯曲「ツチノコ」一五 & エッセー

エッセー インターネットは薔薇色? 遠い昔、地球上には様々な感性の人間たちが生きていた。彼らは近隣の人々と交易を行ったり衝突したりしながら、感性と感性が混じり合い、次第に共通の感性や価値観を持つようになって文明が造られていった。 その頃の地球…

戯曲「ツチノコ」一四 & 詩

詩 僕の心 僕は不思議な夢を見た 僕の心がリークして 小さなデバイスに入り込んでしまった そこからインターネットに流れ込んで 世界中の人の心と混じり合ってしまった 僕の心は拡散に拡散を重ねて 世界中の人と同じことを考えるようになった 僕の心はもう僕…