詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

2019-01-01から1年間の記事一覧

ロボ・パラダイス(十五)& 詩

ロボ・パラダイス(十五) (十五) ポールは地球の隠れ部屋で、リアルタイムに送られてくるキッドのカメラ映像を見ていた。キスの後に、エディ・キッドは「僕が誘ったんだ」とチカに告白した。チカは涙目で微笑みながら、もう一度キッドの額にキスをした。 …

ロボ・パラダイス(十四)& 詩

ロボ・パラダイス(十四) (十四) ジミーは仲間たちとともに、月面に逃亡してしまった。彼の脳データは一つしかなかったので、月の裏側でコピーされ、ストックされなければ本当の超人にはなれなかった。超人は神と同じに不滅でなければならないからだ。同…

ロボ・パラダイス(十三)& 詩

ロボ・パラダイス(十三) (十三) 地球遠征ベースキャンプは月の裏側の某所にあって、ヨカナーンが生まれた地域のヨカナーン崇拝者たちが密かに資材を運び入れて建設している。そこには脳データをコピーする機械も入ったので、すでに幹部の脳データはコピ…

ロボ・パラダイス(十二)& 詩

ロボ・パラダイス(十二) (十二) 一方エディとチカたちは、坂の下の海岸に出て、断崖の方へ歩いていった。チカは歩きながら電波でキッドと会話していたのだ。チカはエディとキッドを分離したいと思っていた。キッドを自分の味方にして、ほかの仕事をさせ…

ロボ・パラダイス(十一)& 詩ほか

ロボ・パラダイス(十一) (十一) 明くる日の早朝、エディが寝ている部屋の窓ガラスに小石が当たる音がしたので外を覗くと、ジミーが手招きをしている。二人のエディは足音を立てずにそっと階段を下り、外に出た。ピッポは気付いていたので、少しばかり遅…

ロボ・パラダイス(十)& 詩

ロボ・パラダイス(十) (十) 夕方になって、チカ一家は自分たちの別荘に帰り、エディ・ママの家には二人のエディとピッポが泊まることになった。ピッポには客間があてがわれ、エディの部屋は、地球から運んだエディの持ち物で溢れていた。エディ・ママは…

ロボ・パラダイス(九)& 詩ほか

(九) 美しい風景を見ながら、五人それぞれが陰鬱な気分になりながら、岬の先の別荘街に向かった。道は車一台が通れるほどの広さで、二百メートルごとに車同士が擦れ違えることのできる広い部分があった。しかしもちろん、ロボ・パラダイスでは車もバイクも…

ロボ・パラダイス(八)& 詩

(八) エディたちは、同じルートでロボ・パラダイスに戻った。警官たちは疲れた様子でだらしなく、事務所の椅子に腰かける。パーソナルロボの電子回路は、故人の疲労感までも忠実に再現してしまう。 チカとジミーは手を繋いで廃棄場の管理事務所から出ると…

ロボ・パラダイス(七)& 詩ほか

ロボ・パラダイス(七) (七) 二人はとりあえず、月面に廃棄する予定の首塚に行くことにした。ほかの二つの首塚では口にテープが貼られていて、話をすることもできない。しかし月面廃棄予定のグループだけは貼られていない。月面は真空のため、音波は通ら…

ロボ・パラダイス(五)(六)& 詩

ロボ・パラダイス(五)(六) (五) 案内嬢が去ると、遠くの岬まで続く白砂の海岸線を眺めながら、三人とも陰鬱な気分になった。椰子の並木がどこまでも続いている。ブルーコンポーゼの海が広がり、水平線に消えていく。砂浜とパイナップル畑の間には散策…

ロボ・パラダイス(三)(四)& 詩ほか

ロボ・パラダイス(三)(四) (三) ロボ・パラダイス行きの宇宙船は千人乗りで、人間の客室とロボットの客室は透明の隔壁ではっきりと分けられていた。片道切符のロボットたちと、往復切符の人間たち。ロボットたちは、かつてはその脳神経が人間のもので…

ロボ・パラダイス(二) & 詩

ロボ・パラダイス(二) 二台のロボットが完成した日には、ポールの隠れ部屋も用意されていた。ポールは田島の案内で隠れ部屋を訪れ、目を丸くした。全方向のVR空間で、部屋は地球と月の間を浮遊している。 「これで拘禁ノイローゼもナシです。月には広大…

ロボ・パラダイス(一)& 詩

ロボ・パラダイス(一) (一) ポールは久しぶりに彼の脳情報を管理している病院を訪れた。主治医はすでに他界していて、対応したのは孫ほどの歳の差がある若い医師だった。 「お話は大体分かっています。ポールさんはおいくつですか?」 「ちょうど百歳に…

おかしな一家(最終)& 詩他

おかしな一家(全文) リニア新幹線を使えば、東京から福岡まで二時間ちょっとで着いてしまう。それなのに、地下ばかり走るから退屈だという声が聞かれるのは、あらゆるものが加速度的にスピード化していく中で、移動時間の短縮化にはまだまだ不満を持つ人間…

おかしな一家(最終)& 詩

おかしな一家(最終) 「仁ちゃん。あなたは二〇歳で結婚しないで、三〇歳で結婚するの。そのお相手はここにいる早苗さんだけれど、彼女はすでに人妻だわ。なら、どうしましょう。簡単よ。今日、早苗さんから皮膚の細胞を少しだけいただいて、伯父さんにクロ…

おかしな一家Ⅲ & 詩

おかしな一家Ⅲ 車はスクリーン壁の狭間を通過してしばらく畑の道を走り、それから鬱蒼とした森に入った。林道を五分ばかり走ると開けたところに出て、田んぼには稲が青々と育っている。今度こそは本物であろう門の前で停止し、鉄扉は音もなく開く。そこから…

おかしな一家 & 詩

おかしな一家Ⅱ 仁は背の高い草を掻き分けながら草原を歩き始めた。草に触れると指が切れそうな痛さを感じるが、すべては仮想現実で、本物の草が生えているわけではない。仁の姿は時たま草に隠れて見えなくなるものの、ゾウが付いていたので見失うことはなか…

おかしな一家Ⅰ & 詩ほか

おかしな一家Ⅰ リニア新幹線を使えば、東京から福岡まで二時間ちょっとで着いてしまう。それなのに、地下ばかり走るから退屈だという声が聞かれるのは、あらゆるものが加速度的にスピード化していく中で、移動時間の短縮化にはまだまだ不満を持つ人間が多い…

火星移住(全文)& 詩

火星移住(全文) 国際連携主催のスパコン・コンクールで勝利したのが、量子コンピュータ「ピッコ」だ。地球温暖化は当然制御不能、気候変動による食糧難が世界を苦しめている。アメリカをはじめ主要各国が自国優先主義を標榜する中、世界同時核戦争の危機が…

火星移住(最終)& 詩

火星移住(最終) 克夫の職場は海抜マイナス二千メートルの最深部に設置された小規模マグマ発電所である。施設が必要とする電力のすべてを賄っているが、働いている人間は克夫と同僚の二人だけで、ほかはすべてロボットだった。二人の任務は極秘扱いで、それ…

火星移住Ⅴ & 詩

火星移住Ⅴ 食事付きの説明会のあとは、やはりピンキー加工現場と広大なストックヤードを見学し、それから屋上に移動して、午後のやや傾きかけた太陽の下で、感動的な新旧交代劇を見物した。硬直したピンク色の人体が、太陽の光を受けてみるみる軟化していっ…

火星移住Ⅳ & 詩

火星移住Ⅳ 学は落ち着いた口調で「あなた、ご亭主?」といって薄わらいを漏らした。勉は状況が分からずに「どういうことですか?」と学に聞き返した。 「彼女はあなたの妻かも知れませんが、僕の愛人です」 どっとわらいが沸き上がった。その中で、勉と小林…

火星移住Ⅲ & 詩

火星移住Ⅲ 見学路は終わり、スケルトンのエレベータに乗り込んだ。一〇〇人乗りのエレベータは上昇し、下からは見ることのできなかった在庫品たちを確認することができた。溜まるばかりの在庫品が五○○段、下から上までびっしりと保管されている。見学者たち…

火星移住Ⅱ & 詩

火星移住Ⅱ 一時間後に見学が始まった。広々とした見学通路で、どこまでも一直線に続いていてどん尻が見えなかったので、アッと声を発する者もいた。とても歩ける長さではないと思ったからだが、通路の半分がゆっくりと動いていたので全員がホッと胸をなで下…

火星移住Ⅰ & 詩

火星移住(短編バージョン)Ⅰ 国際連携主催のスパコン・コンクールで勝利したのが、量子コンピュータ「ピッコ」だ。地球温暖化は当然制御不能、気候変動による食糧難が世界を苦しめている。アメリカをはじめ主要各国が自国優先主義を標榜する中、世界同時核…

恐るべきリケジョたち(全文)

河原では一○人の男がダンボールの中で暮らしている、といっても立地条件の関係上、やむなく狭い場所に集合しちまった。全員アフター六○だがけっこう有能だった連中もいて、仕事がなくてホームレスになったわけじゃない。みんな働くのがいやになったのだ。過…

恐るべきリケジョたち(最終)& ネクロポリス(最終)

恐るべきリケジョたち(最終稿) 多少個人差はあるが、実験台は次々に意識を取り戻していった。気が付いたところは一〇〇メートル四方の中庭である。一方は建物の壁、対面は鬱蒼とした山林の壁、両脇は刑務所のような高い塀になっている。建物の壁には窓一つ…

恐るべきリケジョたちⅣ & ネクロポリスⅫ

世にも不愉快な物語 恐るべきリケジョたちⅣ しかし本当の地獄は、まだ始まっていない。地獄は、緑のお肌がいやだなんだといったムーディーな話じゃないのだ。そのまま一カ月ほどは煉獄的な中途半端な状態だが、これは天国といっても間違いはなかった。目立っ…

ネクロポリスⅩⅠ & 恐るべきリケジョたちⅢ

ネクロポリスⅩⅠ あてどもない放浪は、広大な塩湖に阻まれた 死の海の畔の岩に、ギリシア風の戦士が腰を掛け 浮き沈みする無数の塩玉を眺めていた それは赤子の魂のようにまん丸だった 俺は金平糖のように尖っていたのさ…… アテネに滅ぼされた小さな島の大将…

ネクロポリスⅩ & 恐るべきリケジョたちⅡ

ネクロポリスⅩ 老人は天まで届くような巨木の下に佇む 首なし兵隊に誰何された 「昔、貴方の敵兵でした」 「ここはキリングフィールドさ。君たちが射止めた連中は 大地に帰って木々の栄養になったんだ」 兵隊のされこうべは、ヤゴの指輪になっていた 破壊さ…