詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

童話「草原の光」一、二 & 詩


ちょっとおかしな自由論

おめでたき人々、日本人よ
君たちは中国の監視社会に怒ってるが
自分自身が衆人環視の中で生きていることを知らない
試しに素っ裸で往来を歩いてごらんよ
直ぐに誰かが通報し、警察が飛んでくる
一人ひとりが監視人
人間以外の生き物は、みんな裸だっていうのにさ

裸が恥ずかしいって頭に植え付けたのは
この時代の社会がそう決めたからさ
公序良俗、時代でいろいろ
古代のオリンピックはみんな裸で競ったし
アマゾンの奥地じゃ玉出しが当たり前

江戸時代、男女混浴は普通だし
芝居小屋の便所は外に桶が並び
女たちは平気でまたがり、いばりした
昔インドの茶摘女は茶畑に壷を持ち込んで、縦一列にいばりをし
そいつを茶木の根っこに撒くのが朝一番のお仕事
小便はお茶にとって、最高の肥料だ

かつてのヒッピーも、ストリーキングも、フリーセックスも
裸を前面に押し出して、硬直化した不自由社会を嗤った
大島渚が裁判で戦ったのも、表現の自由を守るため
社会が規制の元締めで、露出が自由の象徴なら
マスクでばっちい口を隠すのは社会の規制で
ボルソナロは自由の男神ということになる

おめでたき日本人は
みんなの言うことを良く聞くお利口さん
結果はコロナの患者数にも出てるだろう
しかし社会の空気を忖度する感性には
波風を恐れる国民気質が表れてる
彼らはおかしな奴らを恐れるんだ
そいつは中国風国家の形成にも、きっと役立つに違いない
みんなでチクってお利巧ポイント・ゲットだぜ!

…路上で酒をカッ食らう青年たちよ
多くの人は眉をひそめるが
僕は複雑な思いで傍観している
これは悪事なのか
それとも自由なのか
悪事と自由は紙一重
エロと芸術は紙一重
いや、そもそも基準があるのかよ
きっとあるけど、社会の風で行ったり来たり
結局、社会が害毒と決めたら一掃だ!

しかし言えるのは
君たちがしょっ引かれれば
日本は中国に一歩近付くことだ
常識の気に入らないことはすべて害毒で
日本と中国じゃ、常識がちょっと違うだけなんだから…

変身
あるいはスパイダーメン

ある朝目覚めると、部屋中に蜘蛛の糸がはりめぐらされていた
寝室の一隅にひときわ糸が玉のようになっていて
蜘蛛に変身した強欲な妻が糸を口から垂らしながらいびきをかいている
顔の隈取は黒と黄の縞模様で女郎蜘蛛であることが分かった
かつてこんな恐ろしい形相の女を見たことがあるだろうか
サイケな縞模様は関わってはいけないという注意信号なのだ
妻を目覚めさせず寝室から抜け出すのは一苦労だった
蜘蛛の糸のしがらみを断ち切ることが難しいのだ
床にはり付いた粘着物に足をすくわれ何度も転倒した
美的生活を願っていたのに何たるぶざまな恰好だ
ほうほうの体でキッチンに逃れ朝食の用意をし
一刻も早く抜け出したいと朝食も取らずに会社へ向かった
会社に入ると社長も上司も同僚も蜘蛛だった
今日は月曜日で朝礼の時間がやってきた
社長は強欲な演説の代わりに糸を吐き出し
投げ縄のようにピンポイントで僕に投げ付け絡め取ると
ほかの連中も糸を投げ付け引っ張ったものだから
まるで宇宙遊泳みたいに空中に舞い上がった
昔サンチョパンサがからかわれた悪質なジョークさ
ああそうだよ 今月の成績はドンケツだったさ
鋭い糸弾の集中攻撃は容赦なく僕に降り注いだ
嗚呼いつから日本は競争競争優秀優秀と叫び出したのだろう
上司の一人が僕を非難して太い糸弾を投げ付けた
僕は飛ばされてしたたか壁にぶち当たり
みんなゲラゲラ大わらいだが社長は生真面目にのたまった
我々は一丸となって蜘蛛に変身したのに
なぜ君はドジな人間でいようとする
必要なのは蜘蛛のようながむしゃらな精神だ
金のためならクソにもかぶりつく特攻精神だ
世の中は蜘蛛の糸でベタベタしているのだから
君も蜘蛛になって軽快に走り回れよ
仕事はフットワークさ これは糸上命令だ
振り向かずに走っていれば絡め取られることもない
人間なんざ捨てなさい クソの足しにもなりゃしない
ベトベトとした毒のある糸をたくさん吐き出して
獲物たちをどんどん絡め取り 首をひねり
尖った口を突き刺して 甘い汁を吸い続けたまえ
それにはニカワのような蜘蛛の糸
うまい具合に利用することが必要なんだ
社会は蜘蛛の糸でがんじがらめになっているのさ
仕事は蜘蛛の糸のネットワークだ 糸上命令だ
そうだよ 仲良しクラブさ みんなで輪になって
蜘蛛の巣を張り巡らすんだ 悪巧みだよ
甘い汁を分かち合おう 人のことなんかどうでもいいんだ
仲良しクラブは親の仇でござる
なんてこというお方を祀る学校のOBは率先して
俺たちの仲間入りさ 能無しでもいいんだよゴマさえ擦れれば
ああ正義などあるものか 正義なんかクソの足しにもなるもんか
お金はクソ弾のようなものなんだ
仲間内で転がしていればどんどん大きくなるんだよ
蜘蛛の話がいつの間にか糞コロガシか 人生は…
人のタマをもぎ取るか 人のたれたクソを舐めるかどちらかなのさ
ようし、もう何にでもなっちまえ!

 

 

童話「草原の光」


一 プロローグ

 十万年前、眠り病が子供たちを襲った時代があったんだ。薬が効かなくて、ちびっ子たちは眠っちまったけど、このままみんなを眠らせちゃいけないと、地球の親分連中が突飛なことを考え付いたのさ。
 病気は人間や動物たちを襲ったけど、ネコ族だけは耐性があった。せめて生まれてくる子供がこの病気で眠らないよう、人間にネコの遺伝子を入れることを勧めたのさ。世界中の母親が、ペットのネコから取った遺伝子を生まれてくる子に入れたんだ。お金持ちは元気な子供に育つことを願って、ペットのチータやヒョウ、ライオンなんかの遺伝子を入れた。アフリカじゃ、ライオンやチータを捕まえて入れ込んだりしたんだ。

 けどさ、母親みんなが同じことをしたわけじゃない。ネコアレルギーの母ちゃんは、いつもどおりに産んで、ほとんどの赤ん坊が眠っちまった。ところがほんの少しの子供が感染しないで立っちして、子孫を残すことになったのさ。生まれつき強かったんだ。

 この子たちは、自然の怖さを教え込まれて育ってきたから、家に引きこもって生活する習慣が身に付いちまった。いつしかその子孫は、穴の中で生活するようになったんよ。十万年後のいま、奴らはモーロクっていう地底人として、深い地下で暮らしてる。

 いっぽう、ネコ科の遺伝子を組み込まれた子供たちは元気に子孫を残し、代を重ねるうちにその遺伝子が強くなって、家を飛び出て放浪するようになったのさ。いまじゃ地球上の建物はみんな崩れて遺跡になって、自然の中で野宿を楽しんでる。雨露防げりゃいいじゃん。ほかの動物と変わらん生活に戻っちまったが、不思議といろんな言葉が話せた。彼らエロニャン地上人は、ほかの動物たちとも仲良く生活してたのさ。

 ところがどっこい、地底人の世界で十万年前の病気が息を吹き返し、再び猛威を振るい始めたのさ。モーロクたちは地下生活を十万年も続けてきたから、病気のことも忘れて、医学だって恐ろしく後退しちまった。それにいまの連中は病気の耐性を失くしてたんよ。このままじゃ、十万年前と同じにモーロクは絶滅するかも知れんかった。


二 地下国家モーロクの国会議事洞窟

 モーロク人は深い地底に住んでるから、運動場も大きくない。だからみんな運動不足で、太ってる人が多い。地底は暑いから、みんな一年中夏姿で、オシャレも必要なし。飲み水は地下水があるし、食べるものは土や岩で十分生きてける。特に深いところの岩は、大昔の植物の栄養分が豊富で、みんなそいつを砕いて粉にして、水を加えて直径十センチくらいのお団子にし、穴蔵に蓄える。お腹が空けばそいつを一個取り出して水を飲みながら食べりゃ一日くらいは腹持ちする。いろんな味の土や岩があるから、食べ物に飽きることもない。地下水だって、場所によって味が違うのさ。みんなが好きなのは、硫黄分の強い癖のある水だな。

 国会議事堂窟には、議員たちが集まって、岩壁のスクリーンを見詰めてる。スクリーンには眠ったまま起きない子供たちが映し出されていたんだ。議長が口を切った。
「見てくれ! 俺たちじゃ、どうしようもできない」
十万年前の古文書を読みながら、文献学者がため息を吐く。
「困った困った。遺伝子って何さ?」
「そんなんどうでもいい。要は病気に強い人間が地上に住んでいるってこと」と誰か。
「彼らは十万年前に遺伝子とやらをいじくられて、病気に強くなったんよ」って別の誰か。
「いまの病気にも強いのか?」
 議長は頭を抱えて呟いた。
「専門家のご意見は?」
 文献学者が議長に目を向ける。

 議長はそれを受けて「モーロク大学医学部御用学者のお偉い先生!」と大きな声を出したな。先生は椅子から立ち上がり、スクリーンを指差す。現われた姿を見て、みんなは驚きの声を上げたんよ。
「これが地上を支配するエロニャン族だ」
「ヒャッ、化けネコ!」と誰か。
「十万年前に枝分かれした兄弟さ。原始的な生活をしてるけど、私たちと同じ言葉は喋る。言いたいことは、彼らを受け入れなければならないということ」
「言ってる意味、分かりませーん」と議長。
「我々古いタイプの人間では、この病気に勝つことはできないんだ。このままじゃモーロクは絶滅だ。それを逃れる方法は、ネコ族と仲良くすること」
「仲良くって、何なのさ?」と誰か。
「結婚するんよ。モーロクの純血を放棄することだ。子供をつくるってこと!」
「ヒャーッ! バケネコの子供をつくるってか!」
 議長は思わず立ち上がったな。「モーロクの子孫をバケモノにするってか!」って誰かが続き、議会は騒然としたんだ。

 先生は静まるのを見計らって、「じゃあ絶滅します?」とのたまった。
「モーロクから見ればエロニャンは化けネコだ。でも、エロニャンから見ればモーロクは毛のないキモイ地底生物さ。でも、元は同じ人間だった。また一緒に暮らせば、眠り病に対する抵抗力も付くだろう。ひとまず、どんな姿になろうと、しぶとく生き残る。残れば、そこから純生モーロクが復活できるぞ。でもって、新しい人類を生み出す若い男女を募集します。集団お見合い。もちろん強制じゃない。私が先頭に立って、地上に向かう」

 議会は賛成するグループと反対するグループの二派に真っ二つに分かれ紛糾。けれど先生は賛成派のバックアップを受けて、強行突破で集団お見合い計画は始まったんだ。

(つづく)

 

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