詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

エッセー「 国家暴走抑止力としての『天皇制』」& 奇譚童話「草原の光」十八 & 詩


霊子

夕刻に近くの浜辺を散策していると
霊子は背後から忍び足でやってきて
僕の左脇にピッタリとくっ付き
透き通るような華奢な腕を腰に絡めた

僕は思わず彼女の透明な頬に口づけするが
爽やかな潮の香りが鼻の中に広がり
そこから肺を通して体全体に拡散し
この世の邪気が霧のように消えていく

陰鬱な僕の心は彼女の暖かい吐息に包まれ
かつて一度も味わったことのない
泣きたくなるような幸せを感じるのだ
ああなぜ、僕は愛を知らなかったのだろう…

霊子はうっすら微笑みながら僕を見つめ
きっとあなたと同じことしか考えないからと言った
この世の愛は、傷だらけの愛
四角の愛と三角の愛が絡み合い、ぶつかり合うの

あの世の愛はまん丸な鏡のような似たものどうし
エゴの棘々が削られ磨かれて、二人の心を映し合う
あなたは私で、私はあなた、私はあなたで、あなたは私
愛が一つに重なれば、紛れた砂を波で洗いましょう

しばらく一緒に歩いていると陽は沈み
霊子は黄泉の国へ戻っていった
僕は幸せを逃がさないように腕を組み
明日も晴れることを願って家路に付く

僕が結婚してから、霊子はもう二度と現われない
僕は新妻と、この世の愛を傷つけ合いながら
あの世の愛のことを、思い浮かべている
そこにしかない、霊的な愛のエッセンスを…

 

エッセー
国家暴走抑止力としての「天皇制」   

 今年のノーベル物理学賞に選ばれた真鍋淑郎氏は、記者会見で米国籍を取得した理由の一つとして、日本人の他人の目を気にしすぎる風潮が合わなかったことを挙げておられた。彼は周りに協調できない性格で、アメリカでは自分のしたいように研究でき、他人がどう感じるかを気にする必要はなかったという。そのおかげでノーベル賞まで昇り詰めたというわけだ。

 眞子さまも祖父である川嶋辰彦氏の緊急入院などで大変だろうが、早く結婚なさってアメリカに住まわれ、一般人として自由を謳歌なさって欲しいものだ。愛し合って籍を入れるのは本人どうしの自由であるはずが、皇室に生まれたことで、あのような騒動になってしまっている。

 それにしても、「君臨すれども統治せず」といった立憲君主制のヨーロッパ的王室が比較的自由な行動を取れるのに、日本の皇室がかしこまった行動を余儀なくされるのは、どうしてだろうかと思わざるをえない。英国のロイヤルファミリーと日本の皇室を比べても、英国の貴人は表情も豊かで、庶民的な自由を多少なりとも味わっておられるのに、皇室の方々は、いつも軽く微笑まれた一定の表情に納まっておられる。これはひょっとすると、天皇日本国憲法で「日本の象徴」とされて財産を国に握られ、「象徴」としての役割を担わされてしまったからかもしれない。「象徴」としての人間は一般国民ではないから、選挙権も、表現(言論)の自由や結婚の自由だって奪われてしまうわけだ。

 国の象徴となれば御旗のような要素も加わって、国民の期待を裏切るような行動は慎むようになり、そうした心配りが立ち居振る舞いや服装・装身具の固定化を促したようにも思われる。しかし、昭和天皇が「人間宣言」をされたのだから、もっと普通の人間に近付いて、英国のロイヤルファミリーのように、ある程度意見を自由に述べられたり、女性は好みの恰好で外に出られても良いのではないか。もっとも「皇室典範」違反になってはと、取り巻き連中は必死になって止めるだろうが、個人的には「ヒゲの殿下」こと寛仁親王(ともひとしんのう)のような自由な雰囲気を湛えた貴人が、皇族からどんどん出てこられることを期待している。

 日本国憲法の「象徴」は、GHQ草案には「symbol」と書かれていて、それを邦訳したわけだが、この曖昧な概念の言葉に対して、それでは天皇は君主かということについては、「象徴は君主ではない」とか「君主だからこそ象徴になりうる」とか「日本は現代型の君主による立憲君主国だ」などと知識人はいろいろ言っている。「非君主説」では「『象徴』は主権者の枠外で、主権者として統治権の一部を有するのが君主の要件なので『君主』とは言えない」と主張する。

 そのほかにも「国民主権下の君主制」だとか「憲法に書かれているのだから、権限が無くてもれっきとした君主だ」とか、「統治に関わらないあくまで象徴としての君主」だとか諸々の言い方があって、どれが明解かも分からない、ということは今後も時の政権によって天皇の解釈がいかようにも変わる可能性があるわけだ。

 日本の歴史を振り返ると、武士の時代に「天皇」は国の統治権を失って以降、様々な権力者に統治の「お墨付き」を与えるなどして利用されてきた。政治権力を失った王が、その後も存在感を保ち続けてきたというのは、日本の伝統・文化の一部であったことを意味している。明治以降も維新政府の神輿に乗せられ、そのまま太平洋戦争の終わりまで武士たち(軍部)に利用されてきた。「象徴」的な役どころは鎌倉幕府の時代から連綿と続いてきたのだ。GHQもこの日本人の心に深く根ざした伝統を配慮し、天皇制を廃止しなかった。僕は廃止論者ではないが、いつの時代にも「天皇」が時の権力者に利用され続けてきたことを危惧している人間の一人ではある。

 その最大の理由は、真鍋淑郎氏の記者会見でも明らかなように、日本人は未だに聖徳太子の「和を以って尊しとなす」という感性を持ち続けており、国の有事においても一つの考えに凝り固まってしまい、異なる意見を吟味せずに「ウザイ奴だ!」と糾弾・排除しながら挙国一致的に団結し、同じベクトルに流れていく傾向があることだ。もちろん権威主義国家ならどこでもこの傾向は見られるが、民主国家である日本の風土に、この傾向が根雪のように残っていると感じるのだ。

 世界情勢を見ても、現在では非民主主義国が民主主義国を凌駕し、権威主義国家の台頭が目立っている。恐慌的な不景気が訪れれば、日本だって戦前のような社会状況に陥ることもあるだろうし、そんなときにヒトラーのようなアイドル的な政治家が出てきて、民主主義の歴史の浅い日本を、いとも簡単に権威主義国家に戻してしまうことだってありうる。そしてその独裁者は過去の連中と同じように、天皇を利用しようと擦り寄ってくるだろう。あるいは好戦的国家であるアメリカ親分の同調圧力に屈する場合があるかもしれない。アメリカの政治は大統領の人格次第で変わるのだから。

 もしそんな状況が日本を襲ったなら、象徴天皇は一般大衆とは異なる立ち位置で俯瞰され、「平和主義」のお立場から、国民がそのような独裁者や外国の口車に乗ってはいけないと思われるだろう。国家暴走の主要因が独裁者のアジテーションに焚きつけられた国民の激情であることは、歴史も証明している。独裁者はにわか仕立てのアイドルかも知れないが、天皇は神代の時代からのアイドルであり、伝統的な日本の文化だ。「象徴」だから政治には口を出せないと思ったら大間違いである。

 特にいままで口を閉ざしてこられたのだから、思いのたけを語る絶好のチャンスだ。出てしまった言葉は、仮に勇み足と思われても、もう収集はできない。越権行為だと政府から批判を受けようが、ご自身の意見を真摯に述べられれば、それは国民の心を大きく動かすに違いない。政治家の暴言は糾弾されるが、天皇の正しい意見は血迷う国民を覚醒させる。「天皇制」に意義があるとすれば、今後来るかも知れない暗黒時代において、「平和主義」のお立場から国家の暴走をとどめる「隠し玉(切り札)」としての役割が大きいのではないだろうか。「帝、そのときには言ってやってください!!」

 


奇譚童話「草原の光」
十八 いざ出発!

 で、空飛ぶ円盤は、アインシュタインが基地に着陸した中古品を使うことにしたんだ。これはウニベルとステラが地球にやって来たときの年代物で、チッチョが貸してくれるって言うのさ。古くても自動バージョンアップ機能が付いてるから、新品とそれほど変わらない。でも、万が一自動運転装置が壊れたときのために、運転のできる人間が必要だった。そしたらヒカリが、アインシュタインがいいって言うんだ。
「でも彼は宇宙法に違反した罪人だよ」ってチッチョ。
「でも宇宙に詳しい人が必要だよ」ってヒカリも反論した。
「じゃあこうしましょう。私たちの知らない間にアインシュタインを連れて出発すればいいわ」ってチッチョリーナは、目をつむることを約束したんだ。

 搭乗員はみんなアンテナの付いた帽子を被せられた。それからチッチョとチッチョリーナは、大きく息を吸ってからトロンボーンのような口をもっととんがらせて乗員一人ひとりに息を吹きかけたんだ。するとシャボン玉のような鼻提灯が出てきて一人ひとりを玉の中に閉じ込めて、頭のアンテナから赤い光を順番に当て始めたんだ。これはきっと近赤外線だな。すると玉の中で細胞が分裂するように、一人が二人に分裂したんだ。できた分身は、ちゃんと頭からアンテナが生えてた。これで、オリジナルのアンテナからリアルタイムで送られてくるダークマター信号を感知して、オリジナルの考えと同じ行動が取れるってわけさ。

 で、みんな鼻提灯を破って出てきて互いに握手したんだ。
「君は僕で僕は君」
「あたしはあなたであなたはあたし」
「アンテナ以外はみんな同じ」ってなわけで、オリジナルと分身は一体感を強めたのさ。

 分身たちはさっそく家の外に吊るしてあったアインシュタインを担いで駐機場に向かい、みんなもぞろぞろ付いていった。分身たちは直径二メートルしかない円盤に次々に乗り込んでいった。当然、みんなの体は瞬時に縮小される。円盤の中は宇宙空間仕立てで、地球の物理学は通用しない次元なんだ。そしてウニベルがうろ憶えで自動運転のモードにして飛び立ったんだ。外のみんなは拍手して見送ったな。
 円盤の中では、さっそくバスタブが引き出され、水を入れてアインシュタインをぶっ込んだ。アインシュタインはものの五分で、元の姿に戻ったのさ。

「ハイ、君たちが私を戻した理由は?」って、アインシュタインはお礼も言わずに聞いたな。
「それは君が天才だからさ」って先生は返した。
「天才? シリウス星人から見れば、普通の人間さ」
「どっちにしろ、この円盤は僕が運転して地球に来たけど、それはチッチョのそっくりさんになったからできたんだ。いまの僕はカメレオーネだから無理さ」ってウニベル。
「で、どこに行く?」
「カメレオーネ星」ってステラ。
「そこは昔、僕たちが住んでた星さ」
「でもあそこは昔とは違うぜ。いまはジュピターが支配する戦いの星さ」
「でも、僕の勘では、アインシュタインおじさんがいると、いいことがあるんだ」
 ヒカリが言うと、アインシュタインはベロを出してウィンクした。
「そうさ、私はあの星には詳しいんだ。円盤が壊れたときにも修理ができるからな」

 さっそくアインシュタインがどこからか黒い玉を二つ出して、バスタブの中に放り込んだ。すると五分ぐらいで二人のサービスロボが出来上がったんだ。彼らはバスタブを引っ込めたあと、一人が「バカンス!」って叫ぶと、操縦室は広い白浜の海岸になってカラフルなパラソルが開いて、デッキチェアが並んでる。みんなそれに座ると、サービスロボが椰子の実を割ったジュースを持ってきた。で、みんな美味い美味いって言いながら飲んだのさ。きっとみんなバーチャル空間の出来事なんだ。
 でも自動運転だから、こんなことしながら目的地に着いちゃうんだよ。普通に行けば十年ぐらいかかるけど、ワームホールを使って隣の時空に入ってから元に戻れば、三日で行けちまうんだ。だから、三日間砂浜でのんびりしてれば行けちゃうのさ。

(つづく)

 

 

響月 光のファンタジー小説発売中
「マリリンピッグ」(幻冬舎
定価(本体一一○○円+税)
電子書籍も発売中 

#小説
#詩
#哲学
#ファンタジー
#物語
#文学
#思想
#エッセー
#随筆
#文芸評論
#戯曲
#エッセイ
#現代詩
#童話