詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

奇譚童話「草原の光」 十三 & 詩

ジハード

 

生きているのが地獄なら

死んだほうがましだろう

戦いで死ねば天国に行けるのなら

誰もが戦おうと思うだろう

 

荒地の畑で採れるわずかな作物を食べ

死ぬまで生きるために暮らすのなら

麻薬の花を摘んで

少しは楽になろうと思うだろう

 

苦しければ苦しいほど

先がなければ先がないほど

追い詰められれば追い詰められるほど

若者たちは夢の中に逃れよう

そこには陽炎のように抜け道が見えるから

 

絶望の地で血を流し

希望の地に行けるならと

若者は爆弾を背負うのだ

 

嗚呼、何も知らない人々よ

貧乏籤を引いた彼らの心を

恐怖の眼差しで見てはならない

平和を願う心があるなら

大きな心で受け止めて

不都合な世界のカラクリを直そうと

共に考えなければならないのだ

人類には叡智があると信じて…

 

そうでなければ人類は

何も抜け道を知らない

愚かな動物に成り下がるだろう

ならばきっと、抜け出せないに違いない

あらゆる生物の、絶滅サイクルからも…

 

 

 

失恋の歌

 

この星は木星以上の厳しい環境 

わらいながら ヒューヒュー喘鳴のごとく 

茶番の嵐が頭上を掠めていく 

僕はカメのように甲羅の中に頭を引っ込めたが

お隣さんは思い切り突き出したものだから

たちまちカラスに持っていかれちまった

いやたぶん窒息しまいと 自ら首を伸ばして… 

 

お手手つないで茶番の中で立派にワルツを踊りまくる

お相手はこれまた茶番のようなお殿様

優雅な踊りのようで どこかしら滑稽だが

先天的なものならば きっと死ぬまで気付かないだろう

お定まりの味付けと お定まりのメニューに沿って

お定まりの興奮に お定まりのアンニュイ

 

風のように 今日はこの店、明日はあの店と

味付けは変わっても ベースは肥し風味の田舎味

僕のお店の味は 一言で言えば都会風で複雑だ

素材の味を隠すためにやたらスパイスを入れ込んで

宇宙食だと君が言った あの不可解なヌーボー風失敗料理

この味の奥深さは 宇宙人にしか分からない…とはいつもの常套句さ

これもまたマンネリ…

 

嗚呼君はシンプルに美しい… 世の中の茶番の嵐に舞い上がり

浮かれまくって蝶のように舞い ハチのように刺す

嗚呼プライドはハチの一撃でたちまちドロドロ溶け出した

恋愛なんて茶番だよ …と言うにはあまりにお粗末なフィーネだ

ならばこの痛手は交通事故のようなもの… きっと運が悪かった

多少のリハビリは必要だが へっこんじまって元へは戻らない

 

 

 

 

奇譚童話「草原の光」

十三 ロックアウト

 

 火山の麓にあるモーロクの国の入口には二人の門番が立っていて、先生が帰っても門を開けようとしないんだ。

 

「我々はついこの間ここから出たばかりなのに、なんで入れないんだね」

 先生が聞くと、門番は冷たい目つきで先生に答えた。

「ここは出口で、入口ではない」

「じゃあ、入口はどこにあるんだい?」

「モーロクには入口はない」って、もう一人の門番。

「出る者は拒まず、入る者は拒むのがモーロクの決まりだ」

 

 確かにモーロクの法律じゃ、そうなってるんだ。地下は空間が狭いんで、昔から、外から人を入れない法律があったのを先生はうっかり忘れてたんだな。先生はシマッタって思った。

「悪いけれど、議長を呼んでくれないか」

 門番の一人が議長を呼びに行った。議長がやって来て、悲しそうな目つきで先生に言ったのさ。

「君はうかつだった。誰も入れないのは昔からの憲法なんだ。そうすることで、わが国の秩序は保たれるのさ。モーロクでは、一度出ると外国人扱いになるんだ。外気に触れた人間はもう入れない」

「しかし、議長も議員も拍手して送り出したじゃないか」

「でも、憲法を変えないかぎり、君たちは入れない」

「じゃあ憲法を変えてくれ」

「残念だが、昨日国会は閉会したから、また開くのは無理さ」

臨時国会を開けばいいじゃないか」

「君は知ってるだろ。議員の多くが君の行動に反対してんだ。モーロクの純血を汚してはいけないって思う人が多いんだよ。反対多数で否決さ」

「この子を見ろよ! 彼はモーロクとエロニャンの間にできた子だ」

 

 議長はヒカリを見ると

「やったね! 丈夫そうな子だ」って目を輝かせて叫んだ。

「だけじゃない。我々は眠り病の子供たちを治す薬を持ってきたんだ」

「すばらしい! さっそく試したいが、憲法では外から物を入れてはいけないことになってんだ。国内の産業がダメになるからな」

 議長は大きなため息をついた。

「じゃあどうしたらいい?」

憲法を改正するまで待ってくれ。一年以内になんとかしよう」

「一年なんて待てないよ!」

「じゃあ諦める以外ないな。悪いけど、君の行動に反対する議員のほうが多いんだ。我々は少数派なんだよ」

「しかしこのままでは、モーロクは消滅するぞ!」

「だからって、法律を破るわけにはいかない。法律を破ったら、私の地位も危なくなる」

 

 突然「父さん、子供たちの命はどうなるの?」ってミュルギが叫んだ。

 議長はハッとしてミュルギを見つめた。ミュルギは議長の娘だったんだ。議長は目に涙を浮べながら背を向けて、そのまま奥に引っこんじまった。外に出た子は、親子の縁を切ったってことなんだな。門番も門をビシャっと閉めちまった。

 

(つづく)

 

 

 

 

 

 

 

 

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