詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」六・七 & 詩

もうひとつのアナタ

 

好きなのはアナタじゃないわ

心の端っこに隠れている もうひとつのアナタ

大きなアナタの影で縮こまっている小さなアナタ

アナタがいつも隠そうとしている惨めなアナタ

暗くてジメジメしたナメクジのようなアナタ

私はどうしてそんなアナタが好きなんだろう

なのにアナタはいつも笑ってしらばっくれ

本当のアナタを忘れようとしている

 

さあ出てきなさい 涙目のアナタ

私はアナタを思いっきり抱いて

いつも以上に激しくキスしてあげる

 

 

わが友キリギリス

 

わが友、臆病者の虫けらよ

生き馬の目を抜く草原にあって

雑草どもの下卑た姿を真似

無言のしもべに必死に抱き付いて

そよ風に揺れながら

上目使いに空を見上げている

お前の目には翼を広げた狩人たちが

獲物を探して飛び回る姿が映るだろう

お前は鳥たちの自由気ままな飛翔を羨み

思わず飛び立とうとするけれど

その羽はひどく貧弱な代物で

たちまち見つかって食われてしまうのだ

なのに愚かにも飛び立ったのは

一寸の虫にも五分のプライドがあり

雑草に見られることが耐えられなかったからだ

お前は雑草を食い物にし、鳥たちはお前を食い物にする

お前は雑草を糞に変え、鳥たちはお前を糞にする

まるで物真似芸人のように

糞である雑草を真似してきた臆病者が

ほんの一瞬魔がさして

鳥になろうと思っちまった

夢を見たんだ、昼間っぱらから豪勢な夢さ

ところが、たちまち鋭い嘴に捕獲され

とうとう糞になって地面に落とされたが

結局は雑草様がお前を食らうことになった

学者先生いわく、「循環型社会ですな」

 

わが友、キリギリスよ

お前はきっと後悔しなかっただろう

あのとき、鳥になり切っていたのだから…

ほんの一時、自由を満喫できたのだから…

数秒でも、大名気分になれたのだから…

 

 

 

抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」

六 それぞれの寝室

 

(舞台上に寝室が三つ、ダブルベッドが三つ。各々の後ろにはドア。それぞれのベッドには下手側から日本とオチューシャ、議長とマタハレ、アメリカとソルケが乳繰れ合っている)

 

(議長とマタハレに照明)

議長 君のような素敵な女性は初めて出会ったよ。

マタハレ 私も、あなたのような素敵な小父様、初めてよ。

議長 しかし不思議なことに、初めてという気がしない。

マタハレ 私も。きっと夢の中で出逢っていたのね。

議長 そうさ、それさ。君は理想の人なんだ。

マタハレ(薬瓶を渡し)じゃあこれを飲んで、もう一度天国に行かせて。

議長 バイアグラだね。さっき飲んだが、また飲んでも大丈夫かなあ。

マタハレ 薬なしで頑張れるんなら、それでもいいわ。

議長 ええい、死ねばもろともだ!(一瓶飲んで、果敢に挑戦)

マタハレ ワッ、死ね死ね!

 

 

(日本とオチューシャに照明)

日本 やっぱ君は、ロボットじゃなかった。

オチューシャ でもあなたはロボットみたいに、心を開いてくれないわ。

日本 僕が心を開いていないだって?

オチューシャ だって、私がこんなに愛しているのに、あなたって、たった一晩の遊び。

日本 そんなことないよ。僕は君を愛しちまった。

オチューシャ じゃあ、奥様と私とどっちが好き?

日本 もちろん君さ。

オチューシャ なら奥様と別れて私と結婚する。

日本 (戸惑って)いいけど、その前に君のことを知りたいな。君はアメリカ人?

オチューシャ ロシア系アメリカ人よ。ロシアには両親も親戚も住んでいるの。あなたと結婚したら、アメリカに両親を呼び寄せようと思うの。だって、中国の次はロシアだもの。お望みなら日本に住んでもいいわ。

日本 日本が第三ターゲットになれば、それもありだな。(舞台は暗くなり、スポットライトが日本に当たりモノローグ)しかし女房と別れるにも金が要るな。この歳で、こんな美人と結婚できるなんて最後のチャンスかも知れんぞ。金は明日入るはずだ。しかし、女房に金を払わない方法もあるな。日本が第一ターゲットになれば、女房は死んでくれる。嗚呼なんてことを……。俺は日本の役人じゃないか。(スポットライトが消え、舞台は明るくなり)本当に僕が好きなのかい?

オチューシャ ええ、もう別れられない。

日本 嗚呼僕もだ。君なしには生きていけない!

オチューシャ ずうっと一緒、死ぬまで一緒よ!

 

(日本がオチューシャに抱きつくと、彼女はウンザリして舌を出す)

 

アメリカとソルケに照明)

アメリカ 逞しい胸。こんな胸に埋もれて、思いっきり泣いてみたいわ。

ソルケ ナイスバディは君のほうだ。

アメリカ あなたがスパイでなかったら、私たち上手くいったかもね。

ソルケ 僕がスパイだから、君は上手くいくんだ。

アメリカ どういう理由で?

ソルケ 君は僕からお金をせびることができるからさ。

アメリカ そのためには?

ソルケ 君はロシアのために働かなければならない。

アメリカ どうすればいいの?

ソルケ 攻撃の順番を変えるだけさ。中国、日本、ロシアの順がベストだ。

アメリカ ロシアは第三ターゲットね。投票マシンをいじくるわ。

ソルケ 金額は……。

アメリカ 明日言うわ。いまは楽しみたいだけ。

 

(二人は再び愛し合う)

 

(議長とマタハレに照明)

議長 嗚呼、もう君とは離れられない。

マタハレ 結婚して!

議長 すぐに女房と別れて結婚だ。

マタハレ でも条件があるわ。私たち結婚したら、中国で暮らすの。

議長 エッ、なんで? 

マタハレ だって、実家のお母さんを一人にさせるわけにはいかないもの。

議長 お母さんをハワイに呼んで、ここで暮らそう。

マタハレ 無理無理、ママは病弱だし、こっちには上手な針の先生がいないもの。

議長 (スポットライトが当たり、モノローグ)しかしわが国の大統領は、中国から借りたばく大な借金を帳消しにするため、中国を亡き者にしろとのご命令だ。中国が滅びなければ、わが国は破綻する……。

マタハレ (媚びて)ねえ、中国で暮らしましょ。

議長 じゃないと?

マタハレ 結婚できないわ。今日でお別れね。

議長 (スポットライトが当たり、モノローグ)嗚呼、この愛国者に祖国を裏切れだと? しかし、こんな美人が俺を愛しているんだ。金はしこたま入るし、若い美人妻と人生をやり直す手もあるな……。

マタハレ ねえ、中国で暮らしましょ。

議長 ああ、でも本当にこんなジジイと結婚したいの?

マタハレ 私、お金のある素敵な小父様にメロメロなの。早く奥様と別れて。

議長 分かった。中国で暮らそう。(モノローグ)さっそくアメリカに相談して、投票マシンに手を加えてもらうんだ。第一ターゲットはロシアだ。

(二人は再び愛し合う)

 

(日本とオチューシャに照明)

オチューシャ もうあなたは、私のことしか考えなければいけないわ。

日本 君のこと?

オチューシャ そう、私のこと。私がロシア人だってこと。私にはロシアに両親も親戚もいるってこと。

日本 つまり、日本が第二ターゲットにならなければいけないってこと?

オチューシャ いいえ、そんなことは言っていないわ。あなたはロシアを第二ターゲットにしたことに関わってはいけないの。

日本 つまり?

オチューシャ あなたは、明日の会議を欠席するの。私とここにいるの。

日本 部下たちには?

オチューシャ 先に行ってくれと言えばいいわ。あなたが欠席すれば、私も納得する。親戚にも言い訳が立つわ。

日本 分かった……。そうするよ。

オチューシャ 私たち、夫婦ですものね。

(二人は再び愛し合う。すると突然非常ベル)

 

アナウンス 火事です、火事です! 避難してください。

 

(裸の三組はシーツやタオルケットを纏い、慌ててドアから飛び出していく)

 

アナウンス 誤報です。火事ではありません。みなさま、お部屋にお戻りください。(突然電気が消え)停電です、停電です! ロビーが混乱し、けが人も出ております。至急お部屋に階段でお戻りください。(裸の宿泊客で混乱する薄暗いロビーの映像が映し出される)

 

(薄暗い非常用照明の下で、視力が弱った熟年者たちの一部は部屋を間違えて入室する)

 

議長 (テントを張ったまま、ハアハア言いながら自分の部屋に戻り)ふざけんなって! 三十階も登るなんて、キリマンジャロよりも大変だぜ。(ベッドに戻る)

アメリカ (ハアハア言いながら間違って議長の部屋に入ってベッドに滑り込み)さあ、続き続き! 

議長 エッ、まだやるの?(二人は絡み合う)

 

(マタハレは議長の部屋を覗いてから、しめしめとアメリカの部屋に入り、ベッドに滑り込む。後からソルケが入ってきて絡み合う)

 

マタハレ すごいわ! アメリカさんは、部屋をお間違え。

ソルケ 君とここで愛し合えるなんて、思ってもみなかったな。

オチューシャ (酒瓶片手に酔っ払ってアメリカの部屋に入り)チキショウ、手癖が悪いんだから私って。ロビーのバーにあったお酒をタダ飲みしちゃった。(二人が愛し合っているベッドに滑り込み、寝てしまう)

 

日本(間違って、いびきを掻くカップルの部屋に入り)なんだ、寝ちまったのか。(ベッドに入り、自分も高いびきを掻いて寝てしまう)

 

七 明くる朝

(議長の部屋のみ浮き上がる。議長とアメリカは寝ぼけ眼でキスをする)

 

アメリカ (悲鳴を上げてベッドから飛び上がって逃げ)なな、なんで私の部屋に議長がいるのよ!

議長 あ、あ、あんたこそなんで僕の部屋で寝てるんだ!

アメリカ (部屋を見回し)あら、間違えたみたいね。ごめんあそばせ。

議長 (立ち去ろうとするアメリカに)ちょっと待ちたまえ。僕たちは越えてはいけない一線を越えてしまったんだ。

アメリカ 三途の川を渡ったわけじゃないわ。気にしない、気にしない。

議長 そんなつれないことを言うなよ。

アメリカ まさか、言い寄ってる?

議長 そうじゃない。いま、君と僕は裸の付き合いをしたんだ。

アメリカ だから何なの?

議長 より親しい間柄になったよしみで、頼みたいことがあるのさ。

アメリカ 聞いてもいいけど、できないことは断るわ。

議長 できないことを頼むわけ、ないじゃん。

アメリカ だからなによ。

議長 中国を第一ターゲットから外してほしい。

アメリカ それはノーよ。大統領の意向に反するわ。あなたの国だって、借金を帳消しできて万々歳じゃない?

議長 僕ちゃん中国の女性と結婚して、中国で暮らすことにしたんだ。

アメリカ 素敵! 古女房と別れて、若いクーニャンと一緒になるのね。その歳でご発展だこと。で、第一ターゲットはどこにするの?

議長 ロシアがいい。ロシアだったら、あんたの大統領も怒りはしないさ。

アメリカ それは絶対ダメ。だって私、古旦那と別れて、若いロシアの青年実業家と結婚して、ロシアで暮らすんだもの、ってのは嘘だけど、ロシアは嫌なの。

議長 じゃあ、日本ということになるな。

アメリカ じゃあ、こうしましょう。日本、中国、ロシアの順番。

議長 いいや、日本、ロシア、中国だ。

アメリカ じゃあ決めた。まずは日本をぶっ潰せ! その後はロシアンルーレット。投票システムの工作員が気分で決めるわ。

議長 オッケー! そのお仲間さんによろしく。前祝として、もう一度遊びましょ?

アメリカ ゲッ、気色ワル! 若い彼氏のところに飛んでいかなきゃ。バイバイ、小父様!(議長の部屋から去る)

 

  

アメリカの部屋のみ浮き上がる。ゾルゲは寝たまま、マタハレ、オチューシャが同時に目覚める)

 

オチューシャ キャッ! 誰よあんた。

マタハレ あんたこそ誰よ!

オチューシャ 私は彼のフィアンセよ。

マタハレ 何言ってんの! 彼のフィアンセは私に決まってるじゃないの。

 

(二人は下着姿でベッドから飛び出し、プロらしく格闘しはじめる。ソルケが目覚めて、拍手を送る)

ソルケ もっと見ていたいけど、もうすぐアメリカが戻ってくるぜ。

オチューシャ じゃあ聞くけど、あなたはどっちのフィアンセなの?

ソルケ 僕は中国とロシアの二重スパイだから、恋人も二人必要なんだ。

マタハレ でも、二人と結婚することはできないでしょ。

オチューシャ ここでどっちかに決めてもらわないと困るわよ。

マタハレ 私、この件で稼いだら、普通の女の子に戻りたいの。

オチューシャ 私だって同じだわ。

マタハレ・オチューシャ どっちを選ぶの! (ソルケに迫り)どっち、どっち!

ソルケ 困ったな。どっちも素敵だから、迷っちまうぜ。じゃあこうしよう。僕は稼ぎのいい方と結婚したいな。持参金は多いほどいいさ。

アメリカ (部屋に入ってきて)じゃあ私ね。この件に関しては、こんな小娘どもと比較にならないほど稼いだんだ。それはソルケ、あなたが一番良く知っていることよね。

ソルケ アメリカに)確かに君は、今日から大金持ちの一員になった。つまり僕は、君を選ぶことにしたよ。

マタハレ こんな婆さんと?

オチューシャ こんなババアと?

マタハレ・オチューシャ 信じられない!

ソルケ 僕の生まれた地方では、持参金の嵩で結婚が決まるんだ。

アメリカ さっそく明日にでも主人と離婚して、婚姻届を出しましょう。善は急げ。主人に電話して、離婚を宣言するわ(携帯を持って廊下に飛び出す)

ソルケ (オチューシャとマタハレを呼び寄せて耳打ち)君たちスパイだろ。僕たちが結婚した後、アメリカに悲劇が訪れるんだ。

マタハレ 可愛そうなアメリカ。

オチューシャ あなたは悪人だわ。

ソルケ で、僕はやり遂げた方と結婚する。

マタハレ 簡単。いつもの方法でやるわ。

オチューシャ 私だって百人も殺しているんだ。

アメリカ (ルンルン気分で戻ってきて)主人も了解したわ。慰謝料はいらないって言ったら喜んでた。

ソルケ オオ、わが妻よ!

アメリカ オオ、わが夫!

 

(二人は大袈裟に抱き合い接吻、マタハレ、オチューシャも一転して拍手し、舞台も紙ふぶきが舞うなど、二人を祝福する)

 

 

(日本が寝ている部屋のみ浮き上がる。日本は目覚めると隣のハワイ人男性とキスし、驚いてベッドから跳び上がる)

日本 なんだ君は! 人の部屋に入り込んで。

ハワイ人 あんたこそなんだ。ここは俺の部屋だぜ。

日本 (部屋を見回し)こりゃ失礼。(部屋からのこのこ出ようとする)

ハワイ人 待てよ。ハワイじゃ他人の部屋に勝手に入り込むのは犯罪だぜ。

日本 停電で勘違いしたんだ。許してくださいよ。

ハワイ人 (銃を出して)アメリカじゃあ、間違いだろうと殺してもお咎めなしだ。

日本 ちょっとちょっと! 幾ら払えば許してくれるんだ?

ハワイ人 相場は一万ドルだな。これがケイマン諸島の俺の口座だ。(紙切れを出し、銃を仕舞う)

日本 (紙切れを受け取り)オッケー。安いもんだ。

妻 (寝ぼけ眼で起き上がり、ハワイ人と濃厚なキスをしながら闖入者を見て目を丸くし、咄嗟にハワイ人を押し退け)キャーッ!

日本 (妻を見て目を丸くし)お前、箱根って話は嘘か?

妻 あなたこそなんでハワイに?

日本 俺は仕事で来てるんだ。お前は、ハワイに男を買いに来たんか?

妻 停電で部屋を間違えただけよ。

ハワイ人 そうさ、間違えたんだ。

日本 じゃあお前は、間違えた俺の女房を襲ったわけだな。これは犯罪だぞ! 

ハワイ人 まあまあまあ、冷静に冷静に。そもそもの原因はあんたなんだ。いったい何十年も奥さんをないがしろにしてたんだい?

日本 (考え込み)そうさな、二十年ってところかな…、(怒りが戻り)関係ない、離婚だ、離婚だ。日本に帰ったら即離婚だ!

妻 (泣きながら)いいわよ、離婚しましょ。私だって、前々から離婚したかったんだから。

日本 普通だったら慰謝料を取るところだが、お前から取ってもしょうがない。タダで離婚してやる。

妻 いいえ、裁判沙汰にして、あなたの顔に泥を塗ってやるわ!

ハワイ人 いいぞいいぞ、奥さん頑張れ!

日本 あんたは関係ない。早く出てってくれ!

ハワイ人 ここは俺の仕事場だぜ。喧嘩をするなら廊下でやってくれ。

妻 いいわよ。裸で廊下に出ていってやる。(裸で出て行く)

日本 (妻を追いかけて)おいおい、慰謝料五千万、お前にやるよ!

ハワイ人 やれやれ、とんだお客を取っちまった。(妻の衣類を廊下に放り出し、ベッドに入って寝てしまう)

 

(つづく)

 

響月 光(きょうげつ こう)

詩人。小熊秀雄の「真実を語るに技術はいらない」、「りっぱとは下手な詩を書くことだ」等の言葉に触発され、詩を書き始める。私的な内容を極力避け、表現や技巧、雰囲気等に囚われない思想のある無骨な詩を追求している。現在、世界平和への願いを込めた詩集『戦争レクイエム』をライフワークとして執筆中。

響月 光のファンタジー小説発売中
「マリリンピッグ」(幻冬舎
定価(本体一一○○円+税)
電子書籍も発売中

#小説
#詩
#哲学
#ファンタジー
#SF
#文学
#思想
#エッセー
#エレジー
#文芸評論
#戯曲
#コメディ
#喜劇
#演劇