詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

アバター殺人事件(四)& エッセー

アバター殺人事件(四)

 

 三人が通された部屋は迷路のようなトンネルの奥深くにあった。部屋の中には、あの下町のオフィスビルにあったような治療用の寝椅子が三台置かれていて、あのときのように三人は仰向けに寝て、頭部を筒の中に入れた。筒に埋め込まれた超電導モーターがゴーゴーと不気味な音を発しながら回転を始め、三人ともたちまち意識を失っていった。地球人としてのルナの魂は、まるで劇中劇のように夢の中で夢を見始めていた。恐ろしい悪夢がスタートした。日本のあちこちに水爆が落とされ、街々は焦土と化した。各地に強制収容所が建てられ、日の丸のマークを胸に付けられた市民が貨物列車にぎゅう詰めにされて運ばれていった。焼却炉の周りには死体が山積みされ、高い煙突からは白い煙が立ち続けた。突然、軍服の胸にたくさんの勲章を付けたレン大統領が高わらいをはじめ、その顔がだんだん悪魔の顔に変形していく。ルナはようやく気が付いたのだ。レンは悪魔の化身だ。レンは、ルナの一生をメチャクチャにする悪魔に違いない。そのとき突然、地下抵抗組織の反撃が始まった。周りで爆弾が炸裂する音や銃弾の連射音が鳴り響き、火薬の匂いが立ち込める。仲間たちが目の前で倒れていく。キタニ中尉の体に弾丸が貫通した。カズが手榴弾で吹っ飛んだ。仲間たちがどんどん死んでいった。再びレンの悪魔が登場し、頭から二本の角を伸ばしながら、その高わらいがどんどん大きくなっていった。三人は激しい頭痛と嘔吐感に襲われ、悪夢の泥沼から這い上がったが、それは無理やりに洗脳装置を止められたせいだった。目の前にレン大統領が部下を従えて突っ立っていたのである。そして、床は血の海と化し、レン大統領の片足はキタニ中尉の死体を踏んづけていた。

「お目覚めかね。床に転がっている連中は、君たちの仲間かね?」レン大統領は三人にたずねた。

「いいえ、我々の敵です。我々は第三国のスパイとしてこの国に潜入し、捕らえられて洗脳機械にかけられたんです」

 ユウが適当なウソをつくっていった。三人は椅子から降り、先生に叱られた小学生のように並んで直立した。大統領は、腕組みをしながら三人の周りをゆっくりと回った。

「第三国というのは?」

「我々はスパイですから、国の名前はばらしません。スパイは常に死を覚悟しています。しかし、我々の国は閣下の国と友好関係を結んでおります」

「友好関係? クソ食らえだ。友好なんざ鼻息で吹き飛ばしてやる。ごらんのとおり、この国とわが国もかつては友好関係にあった。しかし、私は気を変えたのさ。友好条約は対等の力を持つ国どうしが結ぶものだ。こんな弱小国は属国にするほうが自然さ。さて、この秘密基地にいたネズミどもはことごとく退治した。しかし君たちは、その仲間ではないといい張る。ならば、私は人道的な立場から、君たちを助けようと思う。本当は殺すべきだ。スパイなんぞ、どこの国であろうが殺すにこしたことはないからな」

「ありがとうございます」とユウ。

「それに、この二人の女はなぜか殺したくはないのだ。思い出せないが、見覚えがあるのさ。君たちは私に見覚えがないかね?」

「怒りの国の大統領閣下であることは、全世界の人間が知っておりますわ」とエリナが答えた。

「私はそんなことをいっているのではない。君たちは違うタイプの女だが、二人とも私のタイプであるということだ。しかし私は、なぜかしら欲しいとは思わないのだ。君たちを見たとたんに、すぐに飽きがきたのさ。女好きの私が、タイプの女を前にして、もよおさないというのは不思議な現象だ。君たちにはうんざりだ。しかしひょっとしたら、季節的なものかも知れない。盛りの時期ではないということだ。だから殺さないことにしたのだ。殺しておいて、後で惜しいことをしたとは思いたくないからな。しかし男には用がない。君たちはこの男をどうすればいいと思う?」

「さっきは、助けてやろうとおっしゃったじゃありませんか」

驚いたユウが、必死になって懇願した。

「お願いです。助けてあげてください」とルナも口を揃えた。

「ならば助けてやろう。しかし目障りだ。牢屋にぶっ込んでおけ」

 

 ユウは手錠を掛けられ、引き立てられていった。ルナとエリナは、レンの円盤に乗せられて、怒りの国の王宮に向かった。王宮にはハーレムがあって、レンの愛人が一○○人ほど住んでいたが、二人はその一員に加えられ、それぞれの部屋と二人の侍女を与えられた。

 レンが占領国の奴隷女を二人、愛人として新たに加えたという話は、ハーレムの中でたちまち広がり、第一夫人と第二夫人が見物にやってきた。ルナは二人を見て、思わずアッと声を出した。二人の顔に見覚えがあったからである。第一夫人と第二夫人もルナを見て、目をまん丸に見開いた。

「昔、お前と会ったことがあるね?」と第一夫人。

「私もお前と会ったことがあるわ」

 第二夫人も同じことをいった。

「でも、それがいつのことかは覚えがないわ。でも、お前の腹はもっと大きかった。どうしてそんなに萎んじまったんだい?」

 第一夫人は意地悪くいって、軽蔑したような眼差しをルナの腹に向けた。第二夫人の目つきは、軽蔑というよりは憎しみの輝きを呈している。

「この星ではお会いした記憶はございませんわ。むしろ、私のいるもう一つの星で、確かにお会いしたような気がします」とルナは返事をしながら、合体した脳味噌の半分から鮮明な記憶が蘇ってきたことに驚き、地球とこの星の因果関係の強さに改めて驚かされた。

〝そうだ私はこの二人と争って退け、レンを射止めたんだわ〟

「で、あちらの星では、私たちとお前はどんな関係にあったのかい?」と第一夫人。

「どうせ友好的な関係じゃないでしょうに」と第二夫人。

 ルナは、本当のことをいってはまずいと思い、まるっきり反対のことを口にした。

「地球では、あなたたちと私は親友関係にあったのです」

「ということは、こちらの星では敵対関係だわね。すべてが逆さまという話ですから」

 第一夫人はそういって、フンと鼻を鳴らした。

「どっちにしても、ここはレン大統領のハーレムですからね。女たちは互いに敵対して、けん制し合っているのよ。あっちじゃ親友かもしれないけど、こっちでは敵どうし。せいぜい足をすくわれないよう、気をつけていたほうがいいわ」と第二夫人は吐き捨てるようにいってルナをキッとにらみつけた。

 

 二人が去った後、エリナがルナに質問した。

「本当に親友だったの?」

「どういう意味?」

「地球では親友どうしで、こっちでは敵っていうのもおかしな話。それなら、私たちもこちらでは敵どうしになっちゃうわ」といって、エリナ肩をすくめた。

「実は地球でも敵どうし。地球の私はあの二人と戦って、レンと結婚する権利を得たわけ」

「勝利したのね。でも、なぜこちらの星で、あの人たちはレン大統領と関係があるわけ?」

「おっしゃる意味が分からないわ。じゃあなぜ、こちらの星で私とユウが夫婦なわけ?」

 ルナは、機嫌を損ねて反論した。

「地球とこの星の因果関係の深さでいうと……」

「もうそれ以上はいわないで」とルナはエリナの言葉を止めた。

〝そうだ、あの女たちとレンは、いまだに関係を続けているのかもしれない〟

「あなたのいいたいことはお見通しよ。レンが私をほったらかしにしているのは、あの二人とまだ付き合っているからだっていいたいのね」

「それはあくまで可能性の一つだわ。でも、あなたは地球で、モテモテの男と結婚したことは確かね。あなたは妻の座を得ても、精神的には安定していない。それに、大事な駒である赤ちゃんも――」

 エリナの思いやりのない言葉が鋭利な刃物となってルナの胸を刺した。しかし、もう一人のルナがしゃしゃり出て、ビジターのショックを心の奥底に押し込めてしまった。

「じゃあ地球での私の精神を安定させるためには、いったい何をすればいいわけ?」

 ルナは穏やかに聞いた。

「それは簡単よ。レン大統領の第一夫人と第二夫人を亡き者にするの。すると、地球上のあなたの恋敵は二人とも半年以内に死ぬことになる」

 そういいながら、エリナはわらい出した。

「でも私のミッションは、あくまでこの国の人たちを救うことにある。そしてそれは、日本の人たちの命を救うことでもある。私的な行動はNGです」

 ルナはむきになって、きつい眼差しでエリナを睨み付けた。エリナはルナの直球をかわすように、皮肉っぽい笑みを浮かべて睨み返す。

「つまりあなたは、こちらの恋敵を殺すよりは、むしろ地球で夫を殺すことを選択するわけね。ブラボーッ! でも、あれだけ愛している夫を殺すことができる?」

「多くの犠牲を止めることができるなら、喜んで。私は夫よりも、この国の人たちと日本人の多くを守るわ。一人の人間の死が多くの人を救うなら、たとえそれが私の夫であっても私は実行する」

「分かったわ。うそじゃないわね。それだけの覚悟ができたのなら私も手伝う。地球に戻って、私たちのミッションを実行しましょう。時間はないわ。一刻も早くここから抜け出し、地球に向かいましょう。大量虐殺が起きる前に止めなければいけないわ」

エリナはすっかり興奮して、半ば叫び声になっていった。

「でも、ユウは?」

「大丈夫。彼ならうまく抜け出せる」

 エリナは自信満々の顔つきで答えた。

「でも私たちがもし、レン大統領と寝なければならないとしたら?」とルナ。

 エリナは一瞬戸惑って顔を曇らせ、それから探るような眼差しをルナに向けた。

「私たちはプロ意識に徹するの。あなたにとって、レン大統領は……」といってから、エリナは躊躇して言葉を止めた。

「地球では私の夫だけれど、ここでは単なるアバター。でもこっちの私にはユウという夫がいる。複雑ね」といってルナはわらった。

「でも、こっちだろうがあっちだろうが、あなたは覚悟ができている。プロの殺し屋に夫婦間の絆なんかないわ」

 

 そのとき、大統領の秘書が衛兵を二人引き連れてやってきた。好色な大統領が、さっそく新しい女奴隷を味わってみたいというのだ。

「で、どちらをご所望で?」とエリナがたずねると秘書は不思議そうな顔をして、「もちろんお二人ともですよ」と答えた。

 大統領の寝室に入る前に二人は素っ裸にされ、侍女たちから身体検査を受けた。裸のまま寝室に通されると、そこは大広間で、中央に巨大な帆立貝が口を開いた装飾の丸いダブルベッドが置かれ、その上に裸の大統領が横になっているのを見て、ルナはアッと声を上げた。帆立貝の円形ベッドはルナのお気に入りのベッドだったからだ。子供の頃にディズニーの漫画映画に登場したこのベッドがすっかり気に入り、結婚したらぜったいこのベッドを買うんだと心に決めた。それで、結婚数日前にレンが恥ずかしがるのを説得して購入し、新居の寝室に入れたわけだが、そういえばその上で二人は一緒に寝ても、体を重ね合わせたことがないのに気が付いた。レンは毎日疲れ果てて、ベッドに身を投げるとすぐにいびきをかいて寝てしまう。

〝ひょっとしたら、疲れ果てた原因は仕事じゃなくて、あの二人の女?〟

 

 どっちにしても、シェルの上で本物の夫と愛し合う前に、夫のアバターと愛し合わなければならないのだろうかと複雑な心境になったが、そのアバターがむっくりと起き上がり、冷たい目でルナを睨みつけている。

「お前は呼んでないよ」

 それは明らかに、ルナに向かって投げ付けられた言葉だった。

〝なんだこの男――、私をなんだと思っているんだ!〟

「二人は堪忍してくれよ。疲れているんだ。それにお前はもう飽き飽きさ。オーイ、誰か! ダメだよ、用もない女入れちゃ」

 ルナは、ワッと泣き出して、扉に向かって走り出した。こんな辱めを受けたのは生まれて初めてだったが、それはレンの本音かもしれなかった。しかし、寝室から逃れると、心の中でもう一人のルナが喜びの声を上げた。

〝助かったわ。大統領と寝たなんて、ユウにはぜったいいえないものね〟

〝そうだ、私の夫はユウだったわ〟と地球バージョンのルナも同調した。二人のルナの夫が違うというのはなんとも不自然で、しっくりしないことが改めて理解できた。

〝二人の夫は同じ夫でなければいけないわ。そのためにも、地球上のレンは消さなければいけないんだわ。そして、ユウと一緒にならなければいけないんだわ〟

 このときルナは、ようやく決心が付いた気がした。自分の幸せのために、そして微笑みの国のために、日本のために、是が非でもミッションを成し遂げようと心に誓った。

 

(つづく)

 

 

 

エッセー

「平和ラディカリズム」の推奨

 

 先日開催された、トランプ、バイデンのテレビ討論会を見て、失望した人も多かったろうが、僕はむしろ賢ぶって政策論を戦わせるよりは、素直で良かったのではないかと思った。彼らは地を出して戦った、というよりか、さしたる政策もないのだろう。大統領なんかしょせんは政治屋、そんな程度だ。しかし、多くの国民にとっては、難しい政策論よりは分かりやすかったに違いない。我々も会社や家庭で、同じレベルで日常的に罵り合っているのだから、違和感はさほどなかったろう。

 

 プラトンは「賢人政治」などと、自分のような賢人が政治を行うべきだと主張したが、いまの時代、コンピュータを除いては、そんな賢人はイデアの世界にしか見つからない。もちろん、AIが大統領になるのは嫌だ。

 

 かつて政治は王様どうしが武力で戦って、分捕った相手の富を自分の部下や下々の者に分け与え、手なずけるような感じだった。政治は権力、権力は武力。いまでもアメリカ・ファーストはこの延長にあるし、日本の権力者を見ても分かるように、王様的感性が心のどこかに存在している。だから自分の政策の邪魔になる、うるさい学者を排除する行動に出るわけだ。

 

 これは民主主義の感性というよりは、礼賛者だけにいい顔する王様の感性。みなさん、焚書坑儒を行った秦の始皇帝と同じ感性をお持ちのよう。プーチン習近平はもちろん、トランプもバイデンも、美味い汁を求める団体や個人の支持を受けて伸し上がってきたのだから、昔の王様とそんなに変わりはしない。彼らは支持者共同体のトップだ。時が時なら、反支持者たちは全員縛り首。いまでも韓国のように、大統領選挙に負けたら監獄行きという国もあるなど、王国の形態はいろいろバラエティに富んでいる。

 

 アメリカも本当は討論会場にリングを張って、ウェスタン風に殴り合いで勝敗を決めたいところだが、ヒューマニズムの時代は一応体裁を重んじるから、口角泡を飛ばす罵り合いとなる。言葉の暴力の応酬というわけだが、残念ながら、トランプの唾はバイデンに届かなかった。しかしロシアには、コロナよりも怖い毒薬が暗躍している。みんなみんな古来の由緒ある方法だし、みんなみんな王様気分を夢見ている。権力者はどんな手段を使おうが、権力を失っては存在意義も失う。だから、支持者を大事にするし、脅威となる政敵や邪魔な思想はこの世から消し去りたい。

 

 当然のことだが、有権者たちはそれぞれ、理想や理念などは二の次で、自分の状況を良くしてくれる候補者に票を入れる。理念で入れる人は、さほど困っていない人だ。この状況も昔から変わらないだろう。だから、国内政治がどうしようもならなくなった場合は、短絡的に国外から分捕ろうと、王様はいろいろ理由を付けて戦争をおっ始める。クリミアがいい例だし、余裕のない国民は、こじつけの理由でも賛同する。

 

 そんな感じに、昔はやたら戦争が多かったが、いまは昔と違って弱小国には核兵器というジャックナイフがある。僕が北朝鮮の王様なら、絶対に核は捨てないだろう。もし北朝鮮に核がなかったら、王様はCIAに暗殺されていたかも知れない。当然イランもパキスタンもインドも、核核しかじかというわけ。もちろん、大国中国もアメリカも、その他、核保有国すべてが、核抑止力として核を保有し、イラクのような核を持たない国に対しては、気安く戦争を仕掛けたりする。

 

 で、何を言いたいかというと、すべてニーチェの言う「力への意志」の世界なのである。世界中の人民も権力者も、その感性は昔から変わってはおらず、特に戦争に負けたことのないアメリカは、国民の多くが王様気分で、気楽に戦争をおっ始める習性がある。しかし中国も核保有国だから、簡単に手を出せない、ということで世界各国を仲間にして、兵糧攻めを行おうと準備しているわけだ。当然おらが国の親分はアメリカだ。アメリカに加担せざるを得ないだろう。仮にバイデンが勝ったとしても、アメリカの国内事情が逼迫してくれば、トランプの作った軌道に乗る可能性はある。なぜなら、アメリカ国民の中国ヘイトが加速していて、バイデンも簡単に止められないからだ。日本人ジャズピアニストが中国人と間違えられて暴行を受けるなど、恐ろしい状況になりつつある。

 

 国連も会議を踊らせてばかりしていないで、抜本的なシステム改革を優秀なAI君の力でも借りて行うべきではないだろうか。まずは、形骸化した第二次世界大戦の名残ともいえる牛歩システムをかなぐり捨てて欲しいものだが、既得権益者(戦勝陣営側)が利権を手放すわけもない、ということは期待薄ということだろう。

 

 仮に新冷戦時代が訪れるとすれば、世界経済に与える悪影響は、かつての冷戦時代の比ではない。中国は当時のソ連よりもずっと世界経済に寄与してきた国なのだから。古来よりまったく同じ感性で国際政治が動いていくのだとすれば、人類は永遠にディープラーニングのできない猿どもということになる。猿であるのは仕方ないとして、せめてボノボのような平和的な猿になる必要はあるだろうが、攻撃的なチンパンジーはシニカルな笑みで「力への意志」を持ち出してくるだろう。ボノボが勝つためには、「平和」というキーワードを進化させなければならないのだ。

 

 「平和」の進化とは、どういうことか。チンパンジーボノボを結婚させればいい。前回「日本における戦前の平和主義者たちは一億総怒りに軽く一蹴され、太平洋戦争は始まったのだ」と書いたが、ニーチェの言うように、地球生物の営みがすべて「力への意志」であるなら、平和運動だって圧力(パワー)がなければならないのだ。力には力を、というわけ。各国とも、戦前の平和運動は脆弱でまとまりがなく、戦争への流れにくさびを打つことができなかった。しかしいまは時代が変わり、世界中に平和主義者が溢れている。彼らの意志をまとめることができ、それが大きな流れになれば、圧倒的な圧力(パワー)となることは想像できる。

 

 例えば、SNSなどインターネット上で国連に代わる「インターネット国連」でも立ち上げてはどうだろうか。国というしがらみから解放された「平和を求める個人」のユニバーサルな繋がりで、世俗の欲望、王様たちの欲望の彼岸にある「平和を欲する世界人」の巨大な組織だ。マスの圧力で、国のトップはもちろん、国連にも影響力を及ぼせるに違いない。

 

 当然のこと、行動力はネット上から飛び出さなければいけない。地球のどこかで民族浄化や人民抑圧、戦争などが起きた場合、彼らはインターネット上で集結してプロテストを決定し、スマホで世界同時に平和的なデモ行進や自主的な不買行動など、連鎖反応的意思表示を行うのだ。基本的には、あらゆる紛争に関与する紛争解決引受集団で、政府も当事国も、国連も怯えるくらいのパワーを持った巨大な波だ。そのパフォーマンスは、江戸時代の「お蔭参り」や「ええじゃないか」を地球規模にしたような集団行動。前進あるのみの、平和を求めるビッグな欲望機械集団だ。当然、終着地点は伊勢神宮ではなく、「世界平和の丘」ということになる。

 

 香港の民主化デモだって、「自由弾圧へのプロテスト」を世界同時多発的に拡大させれば、なんとかなるかもしれない。当然、中国本土の賛同者も、危険を覚悟で立ち上がる必要がある。要は規模の問題だが、例えば個別な敵国(抑圧者)への怒りを、普遍的な戦争(弾圧)への怒りにチェンジすればいい話。戦争を個々の案件ではなく、現象として捉え、プロテストする。戦争と平和はオセロゲームの表裏で、平和側にひっくり返れば、連鎖反応でどんどん平和色になっていく。まずは紛争地域にインクを投げ付け、アクション・ペインティングの手法で世界中を平和カラーに染めてしまえば、怒れる政府も平和的な解決法を模索せざるを得なくなる。当然、平和カラーは愛の色「ピンク」だ。

 

 設立に必要な資金は、GAFAMや賛同する金持の寄付を味方に取り込めば可能だろう。いや、資金なんか必要ない。発信もデモも組織化も自然発生がベストで、手弁当が原則。戦争の根にある「金銭欲」へのアンチテーゼだ。各々の政府を本気にさせるくらいの民衆パワーを引き出せれば、国連も良い方向に動き出すだろう。

 

 国どうしの利害関係をベースにした国際組織などでは会議は踊り、世界から戦争が無くなることはないだろうし、王様たちの罵り合いで終わってしまう。「平和」というキーワードで世界中の人々が集結するのだから、文句を言う人間もいないだろう。なんとなれば、平和な状態は誰もが望んでいるものだし、世界中の人々が、いつ来るかも知れない「核攻撃」という恐怖の中で生きているのだから。「平和ラディカリズム」などと揶揄されようが、核戦争になるよりか、よっぽどマシだ。

 

 環境の分野では、資本主義社会を大胆に変革しなければ解決しないと主張する「環境ラディカリズム」と、科学の進化が問題を解決するという「環境モダニズム」が対立している。さて、核戦争は科学の力で回避できるものだろうか? そいつは益々恐ろしい世界を演出するのではないだろうか。ニーチェの説が正しいとすれば……。

 

 

 

 

響月 光(きょうげつ こう)

詩人。小熊秀雄の「真実を語るに技術はいらない」、「りっぱとは下手な詩を書くことだ」等の言葉に触発され、詩を書き始める。私的な内容を極力避け、表現や技巧、雰囲気等に囚われない思想のある無骨な詩を追求している。現在、世界平和への願いを込めた詩集『戦争レクイエム』をライフワークとして執筆中。

 

響月 光のファンタジー小説発売中
「マリリンピッグ」(幻冬舎
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