詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」四・五 & 詩

地球の厄介者

 

人間が地球にいなかったら

生き物はみんな自然に溶け込んでいたさ

それらは自然の一部として

自然に素直な心を委ねていたんだ

人間は地球から生まれたけど

ひょんなことから考えることを始めて

自然の一部であることを忘れて厄介者となり

自然から追い出されちまったのさ

ちょうどアダムとイブが知恵の実を食べ

エデンの園から追放されたようにさ

 

考えることは欲望になり、欲望は妄想になり

妄想は悪知恵になって大きく膨れ上がった

挙句の果てには、自然を征服しようと考え

そいつを巨大な獲物と思うようになったんだ

まるでクジラの解体業者みたいに長い刃物で

自然のあちらこちらを切り刻み始めたのさ

けれど奴らは所詮、猿どものバージョンアップ

その浅知恵はいつまで経っても深まらない

自然との共存が大切なことも忘れて

仲間との共栄を優先させ

おまけに仲間どうしの競争に明け暮れて

自然からの略奪を加速させていったんだ

 

「豊かな社会 幸せな生活」

そんな標語は紙くずにもならないぜ

自然から多くのものを奪い取っちまったいま

猿どもはお互いの幸せを奪い合っているんだからさ…

 

 

 

 

抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」

 

四 ワイキキビーチ

 

 (マタハレが水着姿で出店のデッキチェアに座っている。そこに中国代表が通り過ぎ、メモを落としていく。ソルケは離れた所でそれを見ている)

 

ソルケ (他人を装って紙を拾い、黙読してからマタハレに渡し、側のデッキチェアに座る)ハハハッ!

マタハレ (紙をライターで燃やしてから)失敗したら当然報酬は出ない。でも、俺の彼女になれば、お金に困ることはない、だって……。

ソルケ 君は僕とあいつのどっちを取る?

マタハレ 私、お金にしか興味がないの。それに、私の辞書に「失敗」なんて言葉はないわ。

ソルケ それは認めよう。しかしその場合、二重スパイの僕は大金持ちになった君の紐に成り下がる。だから、君が失敗したときのことを想像しようじゃないか。

マタハレ 面白いわ。私がボスと、このハワイで挙式を上げるところから?

ソルケ いいや、その前に僕がやることさ。

マタハレ 分かった。あなたは中国にいるボスの奥さんを暗殺するのね。

ソルケ そう。君とボスが結婚できるようにお膳立てしてやるのさ。

マタハレ それで私はボスと無事に結婚したとして……。

ソルケ あとは僕が中央政府から与えられた任務を実行するだけさ。

マタハレ 当然ボスは、ターゲットは日本になったって、嘘を政府に伝える。

ソルケ 君はすぐに結婚しなければならない。

マタハレ あなたはボスを暗殺して、政府にターゲットは中国だとばらすのね。

ソルケ バカな。そんなことをしたら、このビーチにもミサイルが飛んでくるぞ。

マタハレ そうね。あなたはボスを暗殺して、政府には何も言わない。

ソルケ そうじゃない。僕の与えられた任務は、成功、不成功にかかわらず、ボスを暗殺しろということ。

マタハレ 口封じね。

ソルケ こんな世界会議があることが人民にバレたら、血の気の多い連中は何をやらかすか分からないからな。

マタハレ ボスが私を雇った話は?

ソルケ 僕しか知らない。(笑って)工作資金に明細書は必要ないからね。

マタハレ 安心。あなたさえ手玉に取れば、暗殺されることもない。(二人は笑う)

ソルケ ほら、ターゲットがやって来た。それじゃあ、成功を祈るぜ。(マタハレとキスし、百ドル札をわざと落として男は去る)

 

(議長は通りすがりに百ドル札を拾い、マタハレに渡さずにアロハシャツの胸ポケットに入れる)

 

マタハレ ちょっと小父さん。それは私のお金よ。テーブルに置いておいたのが風で飛ばされたの。

議長 しかし君、君のお金だという証拠はあるのかね? 私は警察に届けようと思ったんだ。

マタハレ でも私は、百ドルぐらいで警察には行かないわよ。

議長 じゃあ、結果として僕のものになって、一件落着だ。

マタハレ 小父さん、面白いわね。横に座ってお話ししましょうよ。

議長 (百ドル札をテーブルに置いて)この席には彼氏がいたんじゃないの?

マタハレ 三十分前までね。でも別れたの。

議長 それじゃあ、いま君はフリーだ。

マタハレ でも、すぐに男はやって来るから大丈夫。

議長 僕のように?

マタハレ お父さんが男だと言える理由は?

議長 金さ。僕は大金持ちなんだ。

マタハレ お金を見つけたときの目つきで分かったわ。

議長 お金は美人の次に好きなんだ。

マタハレ あら、私と違うわね。私、イケメンはお金持ちの次に好きなの。

議長 私を気に入ってくれたら、そんな趣味の違いはたちまち解消だ。さあ、腕を組んで、ワイキキビーチを歩こう。

 

 (マタハレと、議長はお金をテーブルに置いたまま、腕を組んで立ち去る。出店のボーイがその金を胸ポケットにねじ込み、グラスを片付ける)

 

 

五 夜の秘密立食パーティー会場 アメリカ主催、ロボットコンパニオン有り)

 

(中国代表と議長を除く各国代表が集まり、八台のロボットコンパニオンを交えて昼間っぱらから楽しく酒を飲んでいる。八台のうち二台は、二重スパイのソルケとロシアスパイのオチューシャ)

 

コンパニオン (談笑している日本とロシアに近寄り、シャンパングラスを高く掲げて)さあ皆さん。新しい世界秩序の始まりを祝して乾杯いたしましょう。(一同全員乾杯)

アメリカ さて今日は、議長と中国を除け者にした各国の代表にお集まりいただき、前祝をしちゃおうということになりました。会場にはアメリカの技術の粋を集めたロボットコンパニオンが参加し、パーティーを盛り上げます。もちろん、ロボットですから、会議の内容が外部に漏れることはありません。始めに、最初のターゲットを免れた日本とロシアから、喜びの言葉を一言。

日本 皆さんのご協力のおかげで、私自身も命拾いしたと感謝しています。

ロシア 私もようやく安心できて、昨晩はぐっすりと眠ることができました。(全員拍手)

アメリカ 明後日の秘密会議は形だけのものです。中国さえ消滅すれば、二回目、三回目のターゲットは考慮する必要はありません。これで、地球環境は大きく改善し、第三次世界大戦の危機は回避することができました。当然、私たちの関心事はXデー後の話に移行せざるをえません。

コンパニオン それでは皆さん、会場の壁に中国の地図が大きく映し出されました。Xデー後の広大な台地は、いったいどのような形で再生するのでしょうか。皆さん、お酒を飲みながら、お気軽にお話しください。(全員拍手)

日本 (酒を飲みながら)当然、第二次世界大戦以前の権益は確保したいですな。

ロシア (酒を飲みながら)しかし満州などはもともとロシアの土地だったのが、日本に奪われたんだ。

イギリス (酒を飲みながら)バカバカしい。あんた方は命拾いしただけでも感謝すべきなのに、大昔の利権を持ち出すなんて、狂っている。日本が満州を占領できたのも、わが国が支援したからじゃないか。あすこは、元々中国の土地だったんよ。

日本 (イギリスに)ハッハッハッ! 無理やり書かせた契約書を振りかざして、百年も香港を支配してきたのはどこの国で?

カナダ (二人に割って入り)まあまあまあ、カナダなんざ最初から権益などありゃしない。乾杯、乾杯! (一同、乾杯)

フランス (酒を飲みながら)大体、ロシアを含めた先進七カ国が分割統治できなかったのは、互いにけん制しあって、総すくみになっちまったからだ。過去の経験から学んで、こんどはすっきり分け合えばいいじゃないの。

イタリア (酒を飲みながら)ダメだダメだ。みなさん不謹慎この上ない。大体、集中攻撃の目的を忘れていらっしゃる。中国の広大な国土を分割したら、各国が勝手なことをやり始める。またまた工場を建てたりして、結局はCO2を吐き出すようになり、世界は第二の生贄を求めることになる。(日本とロシアを指差し)日本とロシア、あなた方ですよ!

ロシア (驚いて)ヒョートル!

日本 (驚いて)ヤダーッ! お嫁に行けなくなるーッ!

カナダ イタリアさん、それは言えてる。分割したら必ず不公平が出て、喧嘩だ。焦土と化した中国は、酸素の供給源にならなければいけないんだ。

ドイツ (酔っ払って)放射能の供給源でもあーる。(全員笑う)

フランス (酔っ払って)CO2の出る重工業地帯を造ってはダメ。砂漠化させてもダメ。積極的に植林し、地球環境に寄与すべきだ。耕作地を作るのはいいだろう。私のアイデアでは、中国全土を世界の自然公園にして、各国は観光収入を得てはどうだろう。ドイツ村、フランス村って感じかな。トータルな管理はもちろん国連。その利益は、世界各地の恵まれない子供たちにプレゼントする。

コンパニオンたち (拍手し)国連バンザイ! ヒューマニズムバンザイ!

アメリカ みなさん、それぞれのアイデアはXデーの後にして、もう一度乾杯! あとはコンパニオンを交えて、楽しくいきましょうね。

 

(ボーイが各自にシャンパンを配り、アメリカの音頭で乾杯。その後は料理をつまみながらの談笑となる)

 

日本 アメリカに近寄り)ようやくケチな政府を説得しまして、米軍の駐留費倍額負担、すなわち五千二百億円を支払うことに了承いたしました。

アメリカ 日本政府のやることはのろいわ。昨日知っていれば、ターゲット候補にならなかった可能性もあったのに。

日本 いえいえ、まだ間に合いますよ。第三ターゲットになりさえすれば、仮に攻撃されたとしても十年以上後の話だ。その頃は私もリタイヤしていて、ここに住んでいるから、知ったこっちゃない。

アメリカ 第一ターゲットはすでに中国と決まっている。ということは、ロシアを第二ターゲットにしなければいけません。

日本 日本政府には五千二百五十億円と言ってあります。

アメリカ 余分な五十億円は?

日本 顔の広いアメリカさん頼りということでして……。

アメリカ なーるほど、やっぱ日本は賢い国だわ。(胸から紙を出し)これがケイマン諸島の私の口座です。

日本 昨日いただいております。

アメリカ アッ、そうでしたね。(紙を胸に戻す)

 

 (日本が去ると、ロシアがやって来る)

 

ロシア で、日本は幾らということでしたかな?

アメリカ けち臭い国だわ。たった百億円。

ロシア それならお約束どおり、二百億円をドル建てで。

アメリカ 明日振り込めます?

ロシア 任せてください。(去る)

 

 (オチューシャがシャンパングラスを二つ持って、日本に近寄る。スポットライトが二人に当たる)

 

オチューシャ 日本に乾杯!

日本 (空のグラスをテーブルに置き、彼女のグラスを手にして)美人に乾杯! 君はロボット?

オチューシャ さあ、ロボットかも知れないし、血の通った人間かも知れないわ。

日本 ロボットだとしたら、アメリカの技術に乾杯だ。(グラスのシャンパンを飲み切る)

オチューシャ アメリカ代表のおばさんは知らないけれど、私はホワイトハウスから直接送り込まれた日本専属コンパニオンよ。あなたのおかげで、大統領は再選確実になったのに、そんな日本をターゲットにしてしまったのは、彼女の失態だった。彼女はクビになって次の会議には出ないわ。後任が明日来るの。

日本 さすがホワイトハウス。駐留費倍額の話がもう伝わっている。

オチューシャ 大統領はすでに後任に命令したわ。中国の次はロシアだって。

日本 (独り言で)ということは、金を払う必要はなくなったか……。(オチューシャに)それはよかった。これで日本も救われた。(独り言で)浮いた金は、とりあえずケイマン諸島の僕の口座に入れとくか……。

オチューシャ ムームーの胸の内側から手紙を出し)これは大統領から日本の総理大臣に宛てた秘密の親書。お詫びと感謝がつづられているわ。

日本 ありがとう。必ず総理に渡します。

オチューシャ で、今晩の予定は?

日本 二人の部下と前祝。

オチューシャ 私も参加できるかしら。

日本 もちろん。そういえば、部下は部下だけでどこかへ行きたがっていたな……。

オチューシャ 上司と一緒にお酒を飲むのは嫌でしょ。私たちにとっても……。

日本 そうだね。君と二人で酒を飲みたいな。

 

(スポットライトがアメリカとソルケに当てられる。二人は乾杯する)

 

アメリカ あなたが私のお相手をするロボットね。

ソルケ またまたまた。僕がロボットだと思う?

アメリカ そう、私はロボットコンパニオンを見て、憤慨したの。人間そっくりなんて、嘘じゃない!

ソルケ で、部下が君のご機嫌を取るため、すべて人間に入れ替えたってわけ。

アメリカ そりゃ問題だわ。スパイが紛れ込んでいるかも知れない。

ソルケ 君の部下は大馬鹿者だ。

アメリカ きっと、どこかの国に買収されたのよ。

ソルケ で、僕がその国のスパイだったら?

アメリカ 大事になるわ。

ソルケ でも君は賢い女性だ。君が騒ぎ立てれば、この秘密会議も公になる。

アメリカ それはもっと大事ね。(独り言で)私の儲けも無くなっちまう……。

ソルケ それで君は考えた。すでにアメリカが攻撃を受けることはなくなった。この会議が公になったら、また振り出しに戻っちまう。

アメリカ それは絶対に避けなければいけないわ。

ソルケ で、君は僕がロボットだと信じることにした。

アメリカ なんてハンサムなロボットちゃんでしょう。

ソルケ なんて素敵なオバチャマでしょう。僕がロシアのスパイだなんて。

アメリカ 金輪際、思いません。

ソルケ じゃあ今夜はどこで逢いましょう。

アメリカ (ホテルの鍵を渡し)私の部屋で。

 

(ソルケが鍵を受け取ると会場全体が明るくなり、和気藹々とした雰囲気の中でパーティーは盛り上がって幕)

 

(つづく)

 

 

 

 

響月 光(きょうげつ こう)

詩人。小熊秀雄の「真実を語るに技術はいらない」、「りっぱとは下手な詩を書くことだ」等の言葉に触発され、詩を書き始める。私的な内容を極力避け、表現や技巧、雰囲気等に囚われない思想のある無骨な詩を追求している。現在、世界平和への願いを込めた詩集『戦争レクイエム』をライフワークとして執筆中。

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