詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」最終 & エッセー

抱腹絶倒悲劇「第三次世界大戦はこうして始まった」最終

 

八 ターゲット順番決定秘密パーティー

 

 (日本妻とハワイ人を除くすべての出演者、コンパニオンがシャンパンを片手に出席)

 

議長 みなさん、すべての選挙運動は昨日で終わりました。ケイマン諸島への振込みも、つつがなく行われました。昨日、日本代表から、格式ばった会議はやめて、パーティー形式でやってはどうかという提案がございまして、それは面白いということで急遽パーティー会場に変更し、酒を飲みながらの投票といたしました。では、日本代表から一言。

日本 えーッ、世界の歴史を振り返りますと、ささいな事から戦争が始まり、国が潰されてまいりました。みんなみんな、我欲の塊どうしの喧嘩なんだし、弱いものが結局負けるんですから、とても素面ではやっていけません、ってなわけで、いっそのことパーティー気分で投票してはどうかということにしたんです。

全員 ブラボー、ブラボー!

中国 この中でドキドキしているのは私とロシアと日本だけですので、日本の提案で、気楽に行こうということになりました。

ロシア しかし、投票ってえのはどうも気分が悪い。いっそのことゲームにしてはどうかと日本代表から提案がございました。

イタリア そいつは面白い。いったいどんなゲームなの?

ドイツ みなさん、お歳を召した方々ですので、スポーツは無理ですね。

ソルケ 頭を使うゲームも、ちょっと無理だな。

オチューシャ くじ引きのようなものかしらね。

議長 まあまあ、それは後のお楽しみということで、みなさんハワイアンダンスでも楽しみながら、おくつろぎください。

 

(ハワイアンダンスが始まり、各国代表はコンパニオンとともに談笑。そこに二人のボーイが透明の箱を舞台中央に出してくる。ダンスは幕が下りるまで継続)

 

議長 さてみなさん、いよいよ抽選が始まります。この箱の中に、赤、白、青の玉が入っています。私の胸ポケットには第一ターゲットから第三ターゲットまでの色を書いた紙が入っております。まずは日本、次にアメリカ、最後にイタリアの順にお取りください。

イタリア 議長、ボケているんですか。取るのはロシアと中国でしょ。

アメリカ (ロシア、中国を指差し)ロシアも中国も手が震えているわ。代わりに取ってやんなさいよ。

日本 はーい! (赤を取ると、アメリカに促す)早く取って、早く取って!

アメリカ 青だ。イタリアさん、早く取ってあげて!

イタリア (腑に落ちないまま取って)白だ。

議長 (胸ポケットから紙を出し)さて、発表します。第一ターゲットは赤を取った日本です。

日本 (はしゃいで)わーい、やったやった! これで五千万の慰謝料はチャラだ。女房も死んでくれるぞ!

議長 次に、第二ターゲットはアメリカ、第三ターゲットはイタリアです。

アメリカ ワーイ、やったやった! (ソルケと濃厚なキスをする)

イタリア なんでイタリアがターゲットになるんだ! 一昨日の会議はなんだったんだ!

議長 さて、一昨日会議なんてありましたっけ。一昨日会議があったと思う人、手を上げてください。(イタリア以外は手を上げない)

イタリア ジャパンさん。なんで手を上げない?

日本 僕はこの結果に満足ですから。

イタリア 議事録を見せろ! 議事録だ!

日本 日本では議事録を取らないのが常識です。

議長 ましてや秘密会議に議事録は絶対ダメです! 証拠が残っちまいますからね。

カナダ いいじゃないの。潰されるのは日本なんだから。

議長 アメリカさんやイタリアさんが攻撃されることは、まずないですよ。

アメリカ 秘密会議なんだもの、政府には嘘を言えばいいことよ。

中国 (イタリアに)ところで、お宅のケイマン諸島の口座は?

イタリア この前、ロシアに渡しました。

ロシア ハッハッハ、そうでしたな。(中国に紙切れを渡し)乞うご期待。

イタリア (ため息混じりに)しょうがないな、まあいっか……。

日本 (中国、ロシアに紙を渡し)これがケイマン諸島の私の口座です。

アメリカ・イタリア まあ、抜け目のないこと。

日本 オチューシャさんと幸せな家庭を築くんです。

代表全員 おめでとう!(拍手)

オチューシャ (ソルケと腕を組み)残念ね。私の新しい彼はこちらよ。

日本 (呆然とし)ダッ、騙したな!

アメリカ (オチューシャを押し退け)あんた、ソルケは私の亭主よ!

ソルケ ザンネーン、僕の故郷じゃ五人まで妻を持てるんだ。

男全員 ワッ、いいんだ!

マタハレ (飛び出してきてアメリカとオチューシャを押し退け)なに言ってんの、ソルケは私のものよ! 

議長 (呆然とし)ダッ、騙したな!

(日本と議長はソルケと殴り合い、二人はソルケのパンチでノックアウト。三人の女も取っ組み合いの喧嘩をはじめ、全員が囃し立てる)

 

(格闘する三人の女と、殴り倒された日本だけがスポットライトを浴び、後は暗くなる)

 

日本 (頭を抱えて)嗚呼、なんてことをしちまったんだ! 俺は売国奴になっちまった。

 

 (一転、スポットライトを浴びた日本とイタリアの首相、アメリカの大統領、補佐官が舞台奥から登場し、舞台は明るくなる。女三人は格闘を中断)

 

総理大臣 (日本に)君はなんてことをしてくれたんだ!

日本 女に騙されました。

アメリカ大統領に アメリカに)オーマイゴット、君はなんてことをしてくれたんだ!

アメリカ (殴られた頬を摩りながら立ち上がってソルケを見詰め)オーマイダーリン! 愛よ、すべてに愛が優先するの。

イタリア首相 (イタリアに)マンマミーヤ、君はなんてことをしてくれたんだ!

イタリア ボッ!(両掌を上にして、肩をすぼめる)

総理大臣・大統領・イタリア首相 君たち、なんてことをしてくれたんだ!

議長 (殴られた頬を摩りながら立ち上がり)まあまあまあ、もう済んじまったことです。

アメリカ もう変更はできませんわ。

アメリカ大統領 愛のために、君は祖国を売ったのか?

ロシア アメリカ大統領に)次の大統領選挙も影で全面的に協力いたします。

アメリカ大統領 よろしく。しかし治める国はロシア領アメリカか?

中国 (イタリア首相に)あなたがマフィアの一員であることの…

イタリア首相 証拠を掴んでいるというわけだな?

中国 さよう、けっこうなゴシップで。

アメリカ大統領・イタリア首相 (胸ポケットから紙切れを出し)これがケイマン諸島私の秘密口座だ。(中国、ロシアが受け取る)

アメリカ大統領 (核ボタンのアタッシュケースを開き)しかし、この核ボタンを私が押すと、第三次世界大戦が始まるのだ。私の秘密口座には、先進各国から多額の資金が入らなければならない。

補佐官 大統領、それは開けてはいけません!

イギリス・ドイツ・フランス 脅迫ですか?

アメリカ大統領 いや、カツアゲだ。

総理大臣 (ケースに近寄り)へーえ、これが噂に聞く核ボタンですか。

アメリカ大統領 すごいだろ。赤いボタンを押すだけで、ボーン!(右掌を破裂させる)

補佐官 ご高齢な大統領のために、簡単操作に改良しました。

日本 (ケースに近寄り)本当に、ボタンを押せば戦争が始まる?

アメリカ大統領 (威張って)もちろん。地球の未来はこのケースの中にあり、さ。これを持つ者は、神になれるのだ。

総理大臣 じゃあ大統領、試しに押してみなさい。

アメリカ大統領 アホか君、地球は壊滅するぞ。

総理大臣 アハハ、やっぱ噂どおりの意気地なしだ。

アメリカ大統領 何! キサマ(カッとなってボタンを押そうとする)

補佐官 (体で大統領を制止し)大統領、おやめください。大変なことになります。

総理大臣 (日本に)じゃあ君、押してみなさい。

日本 ハイ総理! (ボタンを押すと、アメリカ大統領と補佐官は顔だけケースに向け、全身を硬直させる。一瞬の沈黙)

アメリカ大統領 なんてこった!

補佐官 なんてこった!

全員 なんてこった!

総理大臣・日本 みなさん道連れです。

全員 えーらいこっちゃ、えーらいこっちゃ!(音楽がハワイアンから阿波踊りに変わり、フラダンサーを含めて全員踊り出す)

 

(突然アラート音と「ミサイル飛来、一分後着弾」の音声が何度も繰り返され、全員が悲鳴を上げ、会場は阿鼻叫喚と化す。舞台は一瞬にして暗黒となり、ハワイの背景一面に水爆の映像が広がり、幕)

 

(おわり)

 

 

エッセー

きっと来る。何が!?

 

 大雑把に言って、世の中は金銭的に余裕のある人間と、金銭的に余裕のない人間に分けられるだろう。その比率は国によってバラバラだが、不況の洪水に襲われると、余裕のない連中から溺れていくのは今も昔も変わらない現象だ。小さな不況はゲリラ豪雨のようなものだが、コロナ不況はすでに熱帯低気圧の域を超え、大型台風に育ちつつある。カトリーナ級の世界恐慌にでもなれば、世界中の国々や人々が連携して対処しなければ糊代のない多くの人々が家を失い、路頭に迷うことになる。

 

 ところが、トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」のように、主要各国は連携・協調路線から、自国優先路線に舵を切りつつある。昔はうまくいっていたEUも、自国優先主義者の主張が大きくなり、解体の危機が迫っている。イギリスはすでに抜けたし、足を引っ張る側のギリシア、イタリア、スペインなども、度重なるEUの緊縮要請に耐えられず、脱退を望む国民感情が高まっている。コロナ後のEUは、空中分解する可能性が高い。

 

 それどころか、スコットランド(英国)やカタルーニャ(スペイン)、北イタリア(イタリア)など、国内での独立運動が活発化しているのもEUの先行きを危うくしている。いろいろな歴史的事情(怨恨)は別にして、北イタリアの独立運動家などが「自分たちの稼いだ金が南イタリア公共投資に注がれるのは耐えられない」と主張するのは、まさに「おらが地方ファースト」の論理で、日本の国会にもそんな議員がいるかも知れない。自分の肉を少しばかり切って差し出す精神が「連携」には求められるのだが、多くの国民は痩せていて、そぎ落とす肉も少なく、俯瞰的に考える心のゆとりもない。このゆとりの無さが、アメリカ下層白人の黒人差別や一部ミラノ市民の「南イタリアはアフリカの一部だ」といった差別的な発言を助長する一因にもなっているのだ。

 

 国というのは荒海に浮かぶ船のようなもので、まずは自分の船の乗員を優先させなければ、船内で反乱が起きて転覆しかねない、と船長も常日頃考えている。国家号はクルーズ船のような構造で、国家元首は船長としてブリッジにふんぞり返っているが、その同じフロアに陰で国を動かしている企業資産家たちがとぐろを巻き、下の船室に行くほど力も所有資産も下がり、船底の大部屋ともなれば、いろんな毛色の貧乏人ですし詰め状態だ。当然のこと、浸水すれば下から溺れていくことになるし、連中は救命ボートからはほど遠い距離にある。

 

 しかし、危機の場合においても、船長はこの船内カースト構造を必死に維持しなければならない。おらが国の構造は民主主義であろうと社会主義であろうと、王様の支配する太古から連綿と続く伝統的構造だし、それの維持は取り巻き連中である一等乗客のご意向であることは言うまでもない。彼らは船底に住もうなどとは絶対に思わない。船長はいろいろ付け届けを受けていて、どうしても連中のロビー活動に耳を傾けてしまうわけだ。この構造が変わるときは下層の連中が暴動を起こし、船内が火の海となるときだ。しかし仮に革命が成功し、外郭を残して内部構造が再構築されたとしても、結局出来上がるのは元のようなカースト構造。革命後のソ連や中国を見れば分かるだろう。どうやら人間は、蜂のように同じ構造物しか造れない生物らしい。

 

 民主主義国家でも社会主義国家でも、政府は船底からの出火をいつも気にしている。国家元首の一部は独裁者となって体制の維持に骨身を削り、国内の造反分子の制圧に躍起となるが、手に負えなくなる場合がある。政府に対する不満が船底から中間層にまで燃え上がると、元首は身の危険を感じ、今度は民衆の不満エネルギーを隣の船に誘導しようとする。船の横に穴を開けて、吹き出す炎をほかの船にぶち当てるのだ。第二次世界大戦前の対外進出はこのようにして起こった。日本の場合、国内の貧乏人たちは「お国のため」(結局は自分のため)と、嬉々として大陸に渡っていった。金持たちはそれを見て安堵したに違いない。とりあえずガスは抜けたと……。しかしそのあとに来たのは、日本開闢以来のビッグ・ボンだった。

 

 要するに、今の状況は第二次世界大戦前の状況と似ている。国外・国内ともに協調するのではなく、互いに反発する方向で動いている。国内でも世界でも、良い意味でのグローバリズムは崩れはじめ、日本も対中政策の転換を米国に迫られている。大きな恐慌が来たら、中国は国内分裂を避けるべく、さらに対外進出を強めるだろう。米国がそれに反発して軍事行動を起こせば、日本も見物しているわけにはいかなくなる。危険なのは、排他的な国民感情と権力者の思惑が共鳴したときだ。アメリカの状況はその方向に向かいつつある。権力者には、支持者たちが投げ付けるボールを一旦胸に受け止めて地面に落とし、周りの状況を見極め、最善の球筋を考える冷静さが必要だ。トランプにはその余裕が見られず、ダイレクト・シュートでフカす可能性は高い。

 

 いま世界中の政府に求められているのは、格差の是正だ。戦争が来るとすれば、その最大要因は拡大する格差なのだ。これ以上格差が大きくなると、貧乏人たちの怒り(ルサンチマン)が増大し、政府は打っちゃりを仕掛けて怒りの矛先は他国に向けられ、侵略が始まる。こうした紛争を回避する手段として、ベーシック・インカムの導入は検討されなければならないだろう。それも、先進国が同時に行わなければ意味がない。所得の底上げを世界規模で行う必要がある。当然、高所得者の税金は上がるだろうが、格差の拡大に歯止めがかかることになる。

 

 一方、我々貧乏人たちに求められているのは、「欲しがりません、勝つまでは」の精神。といっても相手に勝つのではなく、自分自身に勝つことだ。平和を維持するには、戦時中と同じくらいの忍耐が必要だ。耐えがたきに耐えながら、怒りを外国に向けるのではなく、重い腰の政府に格差是正を要求し続ける。これは政府の対外政策にも言える。「平和」は、怒りからやってくるものではなく、平常心で勝ち取らなくてはならないものだ。その方法は「腕力」を示すことではなく、「知恵」を駆使した地道な交渉ということになる。妥協点さえ見出せれば、武力行使は避けられ、戦争に進むこともないだろう。それを成功させる根本的な資質は「知恵」であり、人間はサルの中でも一番高いとされている。仮にそれが悪知恵だとしても、猿知恵よりはずっと増し。戦争を回避する権謀術数なら、大いに発揮するべきだ。国家間の戦争は最悪の状態を意味する。好戦的な各国首領に対し、新しい日本の首相に「狡知」を期待したい。

 

 ところで、なぜ神代の昔から国どうし、民族どうしは罵り合い、いがみ合うのでしょう。皆さんもなぜ、感情的になって嫌いな隣人といがみ合うのでしょう。なぜ野党と与党は「平和、平和」と言いながら、ろくな政策論争をせずに戦うのでしょう。一人ひとりの心の狭さが、党と党、国と国の心の狭さにダイレクトに連結していると思いませんか。それが地球上の動物に与えられた性(サガ)だとすれば、地球上から戦争を無くすことはいかに難しいかが分かると思います。地球という有限な資源の奪い合いが生物の基本姿勢だとすれば、それを克服する新しいシステムの構築は、この星で一番の知性を持った人間に課せられた、究極の課題に違いありません。

 

P.S. お金持の皆さん、今のうちに核シェルターを購入しましょう。間際になると、売り切れてしまいます。そのほかの貧乏人の皆さん、運を天に任せましょう。各国首脳が能無し、喧嘩腰なら、きっと悪いことがありますから……。

 

 

 

 

響月 光(きょうげつ こう)

詩人。小熊秀雄の「真実を語るに技術はいらない」、「りっぱとは下手な詩を書くことだ」等の言葉に触発され、詩を書き始める。私的な内容を極力避け、表現や技巧、雰囲気等に囚われない思想のある無骨な詩を追求している。現在、世界平和への願いを込めた詩集『戦争レクイエム』をライフワークとして執筆中。

 

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