詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

エッセー「 世界総沸騰時代到来!」& 詩

エッセー
世界総沸騰時代到来!

 国連のグテーレス事務総長は先日、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰の時代が来た」と指摘し、各国政府に対して、言い訳はやめて具体的な行動を取るよう求めた。また、デンマークの物理気候学者、ピーター・ディトレフセン教授らは、大西洋の海水が表層で北上し、深層で南下する南北循環(AMOC)が早ければ2025年にも停止する恐れがあると英国の科学誌ネイチャーに発表した。この循環は地球の気候を安定化させる大きな役割を担っていて、停止すると北半球の気温が最悪15℃も上がってしまう可能性があるという。いま日本の各地でほぼ40℃の熱波が襲っていて、熱中症で倒れる人が増えているが、55℃となれば米国のデスバレー並みの気温が数年後に日本でも当たり前になるということだ。日本は湿度も高いから、デスバレー以上の灼熱地獄となるに違いない。僕のようななんちゃって詩人が「花よ、蝶よ…」なんて言ってる時代は、もう終わりました。

 そんな状況にならないためには、直ちに100%再生可能エネルギーに転換し、CO2(温室効果ガス)の排出量をゼロにせよと言明できるが、夢のまた夢の話だ。化石賞を獲得した日本を始めとする世界中の国々が、連綿として気候危機への対応よりも経済危機への対応を優先させている。未だに石炭混焼なんて言ってるのだから、なんという想像力の欠如だろう。昔、バブル崩壊後の企業変革が叫ばれていた時代、「ゆでガエルの法則」というものが社長訓示などで盛んに話されたことがある。危機が迫っていてもその変化が緩やかなために気付かず、気付いたときには手遅れになっているという例え話だ。カエルを熱いお湯に入れると驚いて飛び出すが、水の中に入れて少しずつ温度を上げていくと、その温度変化に気付かず、結局茹で上がってしまうという。経営者はこの眉唾ものの法則を取り上げ、現状に甘んじていればいずれ会社は潰れるから、常に危機意識を持って変革にはげめと諭すわけだ。

 国連事務総長の指摘が正しいとすれば、地球はすでに沸騰を始めていて、その上に暮らす我々はカエルのように気付かずに、茹で上がる状態に入りつつあることになる。事務総長もきっと同じ法則を感じながら「行動せよ!」と叫んでいるわけだが、産業の振興で地球温暖化が起こっているのだから、経営者とは目指す目標は正反対ということになる。そして両者の目的の齟齬が、地球に悲劇をもたらす最大の原因であることを、我々カエルたちは悟らなければならないだろう。資本主義社会は経済を第一に考えて突っ走り、事務総長らの環境憂慮派は環境保護を第一に考え、資本主義の暴走を停止せよと叫んでいる。これは左足でアクセルを踏み続けながら右足でブレーキを踏んでいる状態で、カーレースで見られるリスキーな光景だ。重大アクシデントを回避するには、アクセルを弱めブレーキを強めて減速する以外に手はない。なぜなら、再生可能エネルギーへの転換が思うように進んでいないからだ。少なくとも100%転換できるまでは、徐行運転をしなければならない。徐行運転とは、経済成長を止める覚悟の身を切る戦略のことだ。

 昨年事務総長は、GDP国内総生産)を経済指標に使うのはもうやめようと訴えた。森を破壊するとGDPは上がると彼は主張する。しかしGDPは国の経済活動状況のあくまで指標で、そんな指標を取りやめたところで暴走する資本主義が止まるわけではない。経済を優先する各国首脳への注意喚起の意味合いを込めて彼は言ったのだ。しかし各国首脳は、国内経済を第一に考えなければ次の選挙で落選する。国民は常に自分の金銭的豊かさを求めているからだ。そしてその豊かさは常に経済の上昇を前提としていて、それが下降すると、働き手は「零落」という言葉で家族から揶揄されることになる。資本主義社会では、人々は経済の低迷を真っ先に恐れ、環境保護は二の次になる。そして政府は国民の意向を反映した政治を行うことになる。その意味では、GDPを指標から外すことは、経済的指標を国民の目から逸らすことで、政府の環境保護政策をやり易くする効果はあるに違いない。なぜなら地球沸騰時代では、資本主義経済に急ブレーキを掛けなければ、地球温暖化を食い止めることは不可能だからだ。つまり事務総長は、地球温暖化の防止を第一の目的に据え、経済の発展を二の次にしなければならないと、暗に主張しているのだ。

 資本主義は産業革命以降に成立し、自由競争で企業が利益を追求すれば、社会全体の利益も増えていくという理論に基づいている。そしてそれは、地球に生物が誕生して以来の生き物の生き様でもあったわけだ。資本主義社会が悲劇的なのは、その本質が自由競争の原理に支配されていることだろう。つまり自然界では、生き物が繁殖して餌場を独占すれば、排斥された他の生き物は絶滅する。資本主義世界では、ある企業が利益を独占すれば、同業他社は倒産する。だから産業革命以降、企業は生物間闘争のように、他社との闘争にしのぎを削るようになった。昔のドイツの徒弟制のように、若者は地方を渡り歩きながら、いろんな親方の技術を盗んで立派なマイスター(親方)に成長するといった悠長な時代ではなくなった。現在の各親方は負けることに戦々恐々としながら、自社技術を抱え込んで盗まれないように弟子に目を光らせ、ノルマを設定して発破を掛ける。親方の最終目的は競合他社を蹴散らし、市場を独占し、利潤の増大を最大限に高め、社員全員とその家族を金持ちにさせることだ。

 この国内的修羅場をそのまま拡大したのが、世界市場における国家間の競争というわけだ。だから国々は、市場独占率を少しでも高めようと、資源開発や研究開発に邁進し、中には不正な手段で技術情報を盗んだり、他国の領土を奪ったりする国も出てくるわけだ。当然のこと、世界中が資本主義経済で回っているのだから、いくら環境保護団体が叫んでも、急に化石燃料の供給が止まるわけではないし、CO2を排出する既存の産業施設がスクラップになるわけでもない。暴走した原発を止めるのが難しいように、拡大暴走し続けてきた資本主義のメカニズムを急に変えろと言っても無理な話だったに違いない。しかしニューヨークや渋谷に設置された「Climate Clock」でも、温暖化が後戻りできないデッドラインまであと6年を切った。これはピーター・ディトレフセン教授の説とも符合する。我々はあと数年の内に、沸騰地獄の中で生きることを覚悟しなければならないわけだ。

 このような状況を客観的に眺めても、人類は岐路に立たされているのではなく、万事休すの路地に追い込まれていると考えるべきだろう。あれかこれかの選択肢はもう無い。しかし、窮鼠はチーズの夢を見るのではなく、猫を咬むものだ。温暖化のような現実的に迫る危機に対しては、獏としたイメージの世界は通用しない。かつてマルクスが叫んだように、哲学的なイメージの世界に留まり、行動しないことは死を意味するに等しいからだ。我々は、ウクライナの人々がロシア軍に対して必死に戦っている姿を見ている。「目覚めよ!」と僕が叫べば、宗教の勧誘かと思われるかも知れないが、地球市民全員が目覚めて、ウクライナ市民のように必死の覚悟を持たなければ、資本主義内存在である夢見る要人たちは動き出すこともないだろう。いまから政府主導の資本主義経済を急速に転換することはできない。ならば地球市民が一丸となって、そのシステムにブレーキを掛け、地球環境にもたらす悪質な部分を除去すべきなのだ。それは抗がん剤治療ではなく、一か八かの革命的大手術だ。

 例えば各国が宇宙開発にしのぎを削っているが、軍事技術に転用できるからそうしているからで、宇宙の真理を追求する研究者は、何の打算もなく国際的に協力し合って仲良く研究を進めている。それは資本主義経済に寄与することのない、真理の究明というアルキメデスガリレオの時代から連綿と続く探求心により横に繋がっているからで、その一人がノーベル賞を受賞すれば喜び、さほどの嫉妬心を持つこともないだろう。なぜなら、資本主義の第一義が経済の追求であるのとは違い、彼らの第一義は真理の追求で、経済でも名誉の追求でもないからだ。確としたエビデンスでその現象が真理だと分かれば、誰もそれに反論することはなくなる。真理は純粋で穢れなく、打算的な思考を一切寄せ付けない。だから名誉目的で実験結果を捏造すれば、いずれはバレて名誉は剥奪される。ピーター・ディトレフセン教授を始め多くの専門家が、多数のエビデンスで「地球沸騰化」の真理を提示しているのに、各国の首脳や経済界はいまだ目先の利益や経済成長に固執している。沸騰化現象を食い止めるには、環境対策が主で、経済は従であるべきなのに……。

 いまの資本主義経済下でも、金銭的な打算を考えない国際的な結び付きはある。それは反戦活動でも環境保護活動でも同じことだろう。金銭的な打算で繋がった運動では、金が動力源の資本主義に立ち向かうことは出来ない。なぜなら戦争も環境破壊も、その原因は金銭であり、同じ穴の狢だと見透かされてしまうからだ。活動家は揚げ足を取られないように注意しなければならない。環境保護運動は「人類や生態系の滅亡」という危機意識を動力源として、資本主義に立ち向かわなければならない。そしてその危機は、我々茹でガエルの目前に様々なエビデンスとして現れている。

 仮に、世界中が環境対策こそ主で、経済は従であると考えるようになれば、大胆な思考転換の下で、世界中にレジーム・チェンジが起こるに違いない。地球温暖化という巨大な敵に向かって、世界中が一丸となって対峙しなければならないのだから、愚かしい戦争や下等競争をやっている場合でもない。日本でも、少子化対策が失敗したとマスコミなどは騒いでいるが、それは世間的常識に浸かっている彼らの思考転換が行われていないからで、「国は成長し続ける義務がある」という資本主義の妄想に囚われているだけの話だ。少子化大いに結構、そいつは低成長・無成長を成し遂げるには不可欠な要因だ。この大胆な思考転換の下では、かつて戦時下でマスコミが掲げた「欲しがりません勝つまでは」という標語が蘇るだろう。地球温暖化との戦いに勝利するには、地球市民全員が禁欲主義者にならなければならないからだ。そしてジジイの僕は気楽な心持で、偉大なるクラーク博士のように腕を水平に上げて遥か彼方から加速度的に接近する恐ろしき真理を指し、若者たちにこう語り掛けよう。
「少年よ、大志を抱くな!」

(p.s. 情熱は温暖化を加速するので、皆さん冷静になってご自分の余命についてマジに考えましょう。情熱は、環境保護活動のみに使って下さい。生き残るためには我慢が必要です。戦時下の市民のように……)

 

 

 


だるま夕日

(戦争レクイエムより)

太陽が溶鉱炉のように溶け出し
ドロドロの吐液を海に垂らした
水平線に大きな爆弾が落ちたように
遠い向こうの大陸が燃えている
太陽はなんと傲慢な星だろう
あいつはなんて悲しい奴だろう
神の戯れを理解することもなく
託された容赦ない破滅の法則を
光と闇の狭間に向けて
置き土産に投げ落とす
この星に海が生まれたときから
からかう素振りで続けゆく
嗚呼いい加減にやめてくれ
ここらに生きる卑しい猿たちが
すっかりそのカラクリを盗み取り
戯れ始めてしまったのだから
楽しそうに、嬉々として……

 

 

 

 

響月 光のファンタジー小説発売中
「マリリンピッグ」(幻冬舎
定価(本体一一〇〇円+税)
電子書籍も発売中