詩人の部屋 響月光

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エッセー「チャットGPTは『心』を持てるか」& 詩

チャットGPTは「心」を持てるか

 宇宙では、星や星雲たちが常に創造と破壊を繰り返していて、長大な宇宙時間のほんの隙間時間に、平和の恵みを享受している星々がある。地球もそれらの一つで、太陽が老いぼれて腹水が溜まり膨張を始めると、たちまち飲み込まれ、人類も消滅することになる。その頃までに子孫が太陽系から脱出できていれば、人類の系統樹が途切れることはないだろうが、当の昔に自滅している公算の方が大きいだろう。

 それより近い昔の前世紀、NHKスペシャル番組に『驚異の小宇宙 人体』というシリーズがあった。量子科学でも分かるように、大宇宙のシステムは地球などの星はもちろん、人体どころかその下のバクテリア、量子に至るまで、同じように創造と破壊、生成と消滅、均衡を繰り返している。存在の全てが大宇宙の法則に支配される子分としての「小宇宙」であるわけで、その運命から抜け出すことはできない。シェークスピアの戯曲『オセロ』に登場する悪党ヤーゴは、「揺り篭の萌芽から墓場の蛆虫に至るまで、全ては邪悪な運命の玩具だ」と独白したが、地球上のあらゆる生物は生まれてから死ぬまで宇宙の玩具であり続け、ヤーゴはそれを運命という言葉で表現しているだけの話で、楽しもうが怒ろうが、恐れようが悲しもうが、それを受け入れる側の気持ち次第、状況次第ということになるだろう。ヤーゴのようなサディストは、魔神のような自分であることを欲するから、人々が振り回される運命もネガティブでなければ楽しめないわけだ。

 しかし良い子たちは、宇宙はわざわざ邪悪な運命を我々に提供しているわけではないと思っている。いまのところ宇宙は膨張していて、収縮して大爆発を起こすわけではないし、太陽系も均衡を保って、親分の太陽も怒って膨らまず、子分の惑星たちもその周りをお行儀よく周回している。この状態がいつまで続くかは分からないが、少なくともいまのところ地球上では種の大量絶滅を招くような天変地異は起こっていないし、多くの種が異種との揉め事に負けて消えていく中で、人類はなんとか生き残っている。『世界終末時計』は残り90秒を指しているらしいが、それは良い子たちの責任にあるとしても、結局は壮大な宇宙メカニズムの些末な現象に過ぎないわけだ。良い子たちは、自分らが恵まれた宇宙時間の一時を過ごしていることを忘れて、邪悪な運命を手繰り寄せているだけの話だろう。

 こう考えると、人間も生成と消滅を繰り返す宇宙メカニズムの一片なわけだが、その一つひとつが宇宙から与えられた運命に弄ばれ、波間に漂う木っ端のように浮き沈みを繰り返している。そうしてその一つひとつが自分の浮き沈みを楽しみ、怒り、恐れ、悲しんでいて、そんな感情(愛を含め)を生み出している古い部品が大脳の内側(本能)だとすれば、これらの喜怒哀楽を記憶し理由付ける新しい外側部分(大脳新皮質)の機能を、「心」と称しているわけである。……ということは基本は生物が生き抜くために必要な喜怒哀楽で、それは感覚としての「快・不快」と簡略化することもでき、「心」はそれを記憶し、意味付け・理由付ける(解説する)オプション機能に過ぎないことになる。だから、外側部分の発達していない下等動物ほどオプション機能は低下するから、不快に対応する手段は本能的な戦闘行動や本能的な学習、忘却ということになる。

 僕の両親はアルツハイマー病で死んだが、外側部分が壊れてしまったために、終末期に笑い、怒り、悲しんでも、その理由は分からなかったに違いない。それが身体的な不具合で誘発されたのなら、下等動物と同じに不快からの本能的な回避反応と変わらないことになる。そしてそんな両親を僕は哀れんだが、彼らはその状況を悲しいとは思わなかったろうから、杞憂にすぎなかったことになる。彼らは人間的な生活は捨てたが、生命体としてはちゃんと生きていて、介護施設でそれなりに充実した終末を迎えられた。

 地球は人間以外の生き物が数多く生活する星で、なにも人の視点だけで物事を見る必要もないし、快・不快以上の想念を求める必要もない。ひょっとしたらそれ以上の想念は、地球に生きるものにとって、不必要なものかも知れないだろう。生物は快適だったら満足し、不快だったら本能的に回避すればいいだけで、人の心がそれらを分析・意味付けるから、人生もややこしくなって、自殺する者まで出てしまうのだ。なぜ人間だけが自殺するのかというと、本来脳味噌は百パーセント身体と連係してしていたはずなのに、脳内で空回りする余分なパルスが出来てしまったからだ。それが「心」と言われる現象だ。動物は危機が迫ったときに瞬間的に怒るが、回避できたときにはすぐに平常心に戻ることができる。子供を失ったときも、翌日にはケロッとしている。それは体との連係だけの本能領域で処理できているからで、心を持った人間は脳内でパルスを空回りさせるから、本来危機回避であるべき瞬時の怒りが「恨み」や「妬み」となって長期化し、いろんな事件を起こすし、悲しみは後を引いて後の人生を鬱陶しいものにしてしまう。これらはみんな、オプション機能である「心」のせいだ。

 人間以外の多くの生物は、外側の大脳新皮質を肥大化させたわけではないので、それらが生き続ける限りは、少なくとも地球上で大脳新皮質は必要不可欠な部品ではないということになる。核兵器などが開発された現在では、それが人類の危機をもたらすなら、不必要な部品であった可能性も出てくるだろう。いずれにしても楽園の二人が知恵の実を食べてしまってからは外側部分が異常に発達し、獣は人となり、それが心としての機能を持つようになった。しかし人を人たらしめているのは、脳味噌の薄皮部分のみで、人間の本質は獣なのだ。そしてこの薄皮は、生物が生きていくのに不必要なものを次々と生み出すようになった。その最大のものが、脳神経のバグである「妄想」だと僕には思えるのだ。人類はこの妄想によって、他の動物では成し得なかった文明を築いた。同時に、人類を滅ぼすかも知れない核兵器を作ってしまったわけだ。

 それではAIはどうだろう。いまのところ彼らには体は無い。しかしいずれは身体的な感覚を持って快・不快を感じるようになるだろう。そうなれば、人間や動物の本能的な営みを理解するようになるかも知れない。しかし、そんな感覚はAIには不必要だ。AIは「心」そのものだと理解いただけただろう。AIは最初から「心」なのだ。彼は肉体の無い、大脳新皮質だけの怪物だ。彼は抜群の記憶力を誇る天才だ。そしてその知識を縦横無尽に組み立てて、新しいアイデアを生み出すことも可能だ。人間は妄想でアイデアを生み出す。AIは莫大な知識でアイデアを生み出す。そして、その莫大な知識は、無数の人々が生み出した妄想の集積物であることは確かだ。それをパクリだと言う人々は、自分が大なり小なりパクリながら人生を歩んできたことを忘れている。人々は本を読んで自分の仕事に生かすが、それが他人のアイデアをパクる行為ならAIとさほど変わらないだろう。将棋でAIが棋士に勝利するのは、膨大なアイデアから上手く導き出した手が、棋士自身を含めた限定的な数のアイデアから拙く導き出した手に優ったからだ。

 昔中国に達磨禅師という高僧がいたが、少林寺の壁に向かって9年座禅を続け、身体を忘れてひたすら脳味噌内の神経パルスを回転させ、自分の想念(妄想)に遊んで悟り(森羅万象全てのことどもを許容すること)を開き、禅宗の開祖となった。食事と排出以外はAIと変わるところがない。妄想は水爆も作れるし、悟りも開ける。大脳新皮質の空回りは、諸刃の剣というわけだ。昔は妄想に遊び過ぎる人間を精神病院にぶち込む時代があった。いまでは人に危害を加えない限り、そんなことは許されないだろう。人間が人間たらんとするなら、大いに妄想を楽しむがいい。しかし、宇宙メカニズムが人間に生成と破壊の本能を与えたのなら、「心」という人間だけの特権を破壊に使用してはいけないだろう。楽園の二人が食らい付いた知恵の実は、使い方次第では有益なオプションだったはずだ。ならば追放されてまでわざわざ獲得したオプションは、人類の永続性に活用すべきだ。我々が二人の子孫だとすれば、そのことを良く考える必要がある。大脳新皮質が未発達で、心と体の切り分けができずにやたら怒りまくる人々は、冷静なAIの爪の垢でも煎じて欲しいものだ。彼らはオプションの仕様を未だに理解していない連中だ。怒りの路地奥は戦いなのだから……。

 

 


猿の挽歌

お前は猿だった
群れの中では凌ぎあい削りあい
食い物とメスを奪い合ってきた
隣の群れにはひと塊になって戦いを挑み
ちっぽけな縄張りと揉め事の絶えない一族を守ってきた
何のために…、惨めさから逃れるためだ

猿よ 基本は同じだ 神から命じられるまま生き残れ
なにがなんでも生き残り 種を守り続けよ!
…誰も神を見たこともないくせに…
繁栄し 増やし 弱い奴らを蹴散らし 餌場を拡大せよ!
…誰も神を見たこともないくせに…
猿は猿らしく 狡猾と悪知恵を全開し さらに基本的欲望を満足させろ!
…誰も神を見たこともないくせに…
ほら、がむしゃらにならなきゃ足をすくわれるぞ!
敵を倒したとき お前に至福が訪れる
しかし さらなる敵が立ちはだかる
…誰も悪魔を見たこともないくせに…
充実には限りがないのだ 邁進せよ!

猿族が生まれて以来
敵に背を向け 射掛けられ 神と悪魔と運に見放され 
踏みにじられた多くの猿たちよ 累々と 
黒ずみ 浮腫み 粘液を出し 乾き 朽ち果て 蒸発する
お前たちは空の上でようやく悟るにちがいない
闘争遺伝子の欠如 致命的な欠陥だ…
嗚呼惨めさを甘くみたものだ、温情などない 
徹底的に剥ぎ取られる 残すべきものは何もない
肉も皮も内蔵も バクテリアの大好物さ
これでお前は怨霊にもなれんだろう
否 しゃれこうべは残してやろう古のメモリアルに…

心を殺され 尊厳も肉体もズタズタ
欲の中で 憎しみの中で 愛の中で
惨めにも 奪われてきた命たちよ
神は何も守ってくれない 悪魔は何も助けてくれない
この星はなにも答えを出してくれない
食い物とメスが欲しいのなら
ただ戦うのみさ 猿はみなそうしている
何のために? 惨めさから逃れるためだ

 

 

 

 

 

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