詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

(今月の詩)

君たちは騙されている

 

君たちは騙されているのだ

無限宇宙のたった一つのちっぽけな星に

無数の命がカビのように育まれているなどと

人間はその中でも選ばれし生命体であるなどと

そしてさらにその中の頂点を目指して戦っているなどと……

君たち地球人は騙されているのだ

生命体諸君の命を繋ぐ必死の努力は

君たちが自ら欲したものではさらさらなく

お天道様というありきたりな恒星の

気まぐれな座興に過ぎないだろうということを

けっこう強めのスポットライトを当てられて

君たちはダンスやらカッポレを踊らされ

毎日茶番劇を演じさせられているだけなのだ

君たちは騙されていることを知らずに

ひどく疲れていても、高熱があっても

真ん丸い舞台から逃げることは叶わず

死ぬまで踊り続けなければならないだろう

そうだ君たちが解放されるときは

藻屑となって奈落に落ちるときだ

しかし君たちはそいつをひどく恐れるあまり

満身創痍になりながらも

真ん丸い舞台から落ちるまいと

必死に踊り続けるのだ

嗚呼その舞台はなんて小さく滑りやすいのだ!

嗚呼君たちはなぜケツを振って他人を弾き飛ばすのだ!

嗚呼飛ばされて、消え行く奴らはなんて惨めな顔つきなのだ!

見ろよ、お天道様が真ん丸い顔して笑っているぜ

「おめでとう、君たちは勝ち組さ。しかしジッと私を見つめることもできないくらいの臆病者さ」

 

 

 

欲望の果て

 

俺を覆っている皮袋は

俺を人間の姿に型押しして

内部のドロドロした欲望を

押さえ込んでいるのだ

愛も金品も名声も

知識も覚りも天国も

皮袋の中で撹乱しぶつかり合い

混ざり合って叫びとなり

そいつは次第に勢いを失い

滓となって底に溜まり

足取りを重くする

そして終末には

地下牢の囚人のごとく

動く必要性も見つからず

淀んだ汚水のように

内部から腐り始め

絶望のうちに死を迎える

その時すべての我欲が解放され

皮袋の外側にべっとりにじみ出て

異様な臭いを外界に放つ

俺はそいつを身に纏いながら

可笑しな恰好をさせられて

炎の中へと入っていくに違いない…

 

 

 

 

響月 光(きょうげつ こう)

 

詩人。小熊秀雄の「真実を語るに技術はいらない」、「りっぱとは下手な詩を書くことだ」等の言葉に触発され、詩を書き始める。私的な内容を極力避け、表現や技巧、雰囲気等に囚われない思想のある無骨な詩を追求している。現在、世界平和への願いを込めた詩集『戦争レクイエム』をライフワークとして執筆中。

 

 

 冒険ファンタジー小説「マリリンピッグ」発売中

響月光著(幻冬舎

暗い暗い詩とは正反対に

明るいハッピーエンドな大人の童話です。

地球の平和を実現するため

生き物たちが一斉に走り出します。

(なお、本文中の注釈は悪評のため読まないことをお勧めします)

 

○キーワード

「愛しか地球を救えない」

 

 

 

○あらすじ

(時は未来。世界大戦のさ中、世界中から平和を願う者たちが聖火を手に走り出した。聖火台は愛の女神マリリンの丘。聖火台に火を移すと、飢えや戦争、喧嘩のないまったく新しい地球が始まる。聖火ランナーたちは途中で様々な困難に遭いながらも完走し、成し遂げる)

 世界同時核戦争による人類滅亡時、一人の天才が五万年後の地球再生プログラムを残した。五万年後の地球では生き残りの動物たちが言葉を獲得し、火山噴火による天候不順の中、人を含めた動物たちの新たな世界戦争が起こっている。ヒト族の平和主義者が天才の住んでいた洞窟から燃える聖火と七本のトーチ、食糧(マンナグリン)、書を発見。書には「聖火をマリリンの丘に点火すれば平和が訪れる」と書かれていた。さっそく平和を願う動物たちが結集し、トーチに点火するとAI化した天才も目覚め、ヒト族の少女で戦争孤児のアチャナを先頭に一斉に走り出した。

 平和を願う者なら伴走随走自由。参加者はみるみる増えて炎の棚引く方向へひたすら走る。サル国との国境では、腹を空かせたヒヒ軍に威嚇されるが、マンナグリンを与えて仲間に加え、大きな活火山の洞窟に入った。このときリュックから漏れたマンナグリンが勝手に増え始め、火山と戦争で不毛の地となった大地をどんどん緑化していった。洞窟の岩戸を開けると、精神をAI化し、永遠に生きることを選択したかつてのフィアンセ、ヒカリ子に天才が再会。光となってアンドロメダからやってきたアンドラもいて、故郷の森をVRで再現したが故障でフリーズ。一行は仕方なしにその中を進み、森林ドミノ倒しなどの危機に見舞われながらもVR空間を抜け出すと、そこは火山の頂上で、七本の聖火の示す方向がバラバラとなり、各ランナーは分散することになった。ヒト族の青年ピロンとアチャナは聖火の棚引く方向が同じだったので恋が芽生えたが、すぐに方向が分かれ、二人はマリリンの丘での再会を誓った。

 アチャナが下った場所はロボット国。ロボットが隣国を攻めるのは、沖合の島が発する妨害電波に耐えられず、民族移動を余儀なくされているためだ。アチャナはトーチをロボットに預け、電波を止めようと仲間と島に向かう。島では妖精たちが出迎え、城の入口を守るヘビ怪物の攻略を手伝う。アチャナは怪物を酒で酔わせて城内に入ることができたが、鏡の間にいたのは幻のマリリンとペットの小豚だった。鏡には電波を止める無数のスイッチが映っていて、そのうちの一つが本物だ。たまたま下に小豚が映った一つを見つけ、それを思い切り切ると城はたちまち崩壊してアチャナは海に投げ出され、海底人の潜水艇に助けられる。

海底人の沈船には海底生活満足組と陸への郷愁組がいて、アチャナは郷愁組の救世主として歓迎され、トーチを手渡される。海底にはアンドロメダからくる聖火が吹き出す所があって、アチャナは点火のために泳いで聖火の中に入ってしまう。そこにはアンドロメダの理想の地球に住む、理想のアチャナと理想の両親、戦争孤児院の理想の仲間たちがいて、アチャナを励ました。アチャナはトーチに火を移し、郷愁組の先頭に立ってマリリンの丘へと急いだ。元気を取り戻したロボット軍団もアチャナの様子を知って、自分たちでトーチをマリリンの丘に運ぶことにした。

アチャナは運悪く、火山が大噴火中のネコ国に上陸。難を逃れるため、ネコ将軍の案内で町の郊外にある秘儀荘に入った。ネコ神ニャッカスが秘儀で救ってくれるという。さっそく壁画のニャッカスが鞭打たれ役にアチャナを指名。岩に縛られて打たれるたびニャッカスのメスネコたちが興奮して杖を片手に回り始め、小さなブラックホールが誕生し、アチャナたちは吸い込まれてどこかへ飛ばされた。

 一方ピロンはダチョウ国に入ったが、そこはライオン軍が侵攻している最中だった。突然大量の矢が飛んできて、聖火隊全員の首に刺さったが死ぬ者は誰もいない。ライオン軍がやってきて、模擬矢だと説明。矢があれば腹が減っても喉につかえて敵を食えないという。ピロンは沙漠に広がるマンナグリンを指差して、あれを食えばお腹一杯になるとアドバイス。最初は「草なんか食えるか」とバカにしていたライオンも、あまりに空腹だったので食らいつき、大満足でシマウマとも感動の仲直り。突然鳥の大群がやってきて、首の矢を掴んでピロンたちをマリリンの丘に運んでくれるという。彼らは地球再生の息吹で卵から孵り、マンナグリンを食べて急速に成長し、飛び立ったのだ。

 アチャナたちが落ちたのは世界武器博覧会の会場。太古からのいろんな武器が展示され、商談にも応じるという。アチャナたちは早く出ようと思ったが、骨董の拡声器を十字に四つ並べただけのチャチな武器に注目。開発者が勝手に動かすと、入場者全員がその場で眠り込み、戦争で死んだ恋人や仲間たちの夢を見た。目覚めるとみんな涙を流し、一斉にマリリンの丘を目指して走り出す。しかしその方向は、原爆シミュレーション会場だった。放射能の不気味な光が飛び交う中、倒壊した街を進んでいくと、地面から幽霊たちが浮き出て伴走者たちを引きずり込んでいく。アチャナはかろうじて逃れたが、キノコ雲のハリボテが上から落ちてきて辺りは暗黒になった。しかし廃屋の壊れた便器の穴に聖火が吸い込まれていくので、仕方無しにそこから下界に下りると、死の灰越しに無数の聖火が見え、その向こうにクリスタルの丘が出現した。愛の女神マリリンの丘だ。世界中の聖火が集まっている。透明なクリスタルの中には小学校があって、校庭にはマリリン先生と小豚、妖精(生徒)たち、若い先生ピロンもいて固まっていた。

アチャナの横にピロンが来て、自分は天才が作ったそっくりロボットであることを告白。アチャナはピロンがロボットでも結婚することを決めていた。丘は核戦争で蒸発した家々のガラスが地球を回ってここに落ちたものだ。世界中から来た聖火ランナーが丘に登り一斉に聖火を点火する。丘は溶け出して中の連中は五万年ぶりに解放され、飛び出してきた。小豚が死の灰の上を走り回り、緑のウンコを次々にしていくと大きく広がり、たちまち灰は消えて花園に。子豚の糞がマンナグリンのルーツだった。大人も子供も感激して走り回り、争いのない豊かで平和な新星地球の夜が明けた。