詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

宇宙人に告ぐ

 

君たち、選ばれし宇宙人たちは

常に色眼鏡、マスクで顔を隠し

地球人の吐息に汚染された空気を

そのまま吸い込んではいけないのだ

君たちの混じり気のない脳味噌は

地球在来種である腐敗菌に侵され

たちまちにして腐ってしまうだろう

君たち弱き地球外生物

この苛酷な環境に生きていくためには

本来的な擬態の能力を駆使して

地球内生命体の思考・行動パターンを真似ることだ

群がり、笑い、罵り、馬鹿にし、怒り、騒ぎ、暴れろ!

地球人らしく振舞え! 仕切り屋に引っ張らせて走り出せ!

そして息を切らせ、自己嫌悪に陥ったときは大の字になり

一人星空を見上げて、遠いふるさとに思いを馳せるがいい

知っているか? 残念だが君のふるさとは見つからない

君は地球人が産み落とした地球内宇宙人なのだから…

大きくため息を吐き、ヨロヨロと立ち上がるのだ

諦念し、一人であることを実感し、猿真似を放棄せよ!

そして前方を見ろよ、地平線には徒党の後ろ姿は無い

奴らは馬車馬のように前ばかり見てがむしゃらに走るんだ

君はこれ幸いとギャロップ走行をやめればいい

負け犬となってフラフラうろつくのもいいだろう

するといたるところに似非宇宙人がうろついている

奴らはいつも腹を空かせているがけっこう楽しそうだ

この星の苛酷な仕来りから解放されたあの幸福感だ

 

 

 

 

響月 光(きょうげつ こう)

 

詩人。小熊秀雄の「真実を語るに技術はいらない」、「りっぱとは下手な詩を書くことだ」等の言葉に触発され、詩を書き始める。私的な内容を極力避け、表現や技巧、雰囲気等に囚われない思想のある無骨な詩を追求している。現在、世界平和への願いを込めた詩集『戦争レクイエム』をライフワークとして執筆中。

 

 

 

響月 光のファンタジー小説発売中

『マリリンピッグ』(幻冬舎

定価(本体一一○○円+税)

電子書籍も発売中

 

 

『マリリンピッグ』と初源的同一性

 

 『マリリンピッグ』は、世界同時核戦争によって人類がほぼ絶滅したあとの物語だ。主人公の一人である「天才」は、そのとき自らの頭脳をAI化して来るべき未来に託し、命を絶った。その来るべき未来とは、自分がプログラミングした「初源的同一性社会」だった。初源的同一性とは、人間と動物はもとは同じもので、人間は自然の一部として動物の主体性をみとめながら生きていくという、太古の狩猟社会では一般的な社会の形だった。現代でもカナダ先住民族などにそうした社会の痕跡が見られるという。

 この社会では、動物は人間の食用となるものの、動物の主体性は尊重されていて、互恵関係があるという(人間の身勝手な観念ではあるものの…)。狩人は、動物の魂が自ら人間のために自分の身を捧げるのだと考える。だから獲物の自己犠牲に感謝し、貴重ないただき物として決して疎かにせず、すべてを利用しようとする。当然のこと、必要最小限の狩猟にとどめ、乱獲はしない。

 「天才」はこの原始的な社会の再生に魅力を感じたが、一つだけ許しがたいものがあった。自己犠牲で狩人の目の前に現われる動物は、まるで国のために前線に派兵される兵隊じゃないか……。動物がなんで人間のために自己犠牲を強いられるのか……。つまり人間は王様で、動物は二等兵だというヒエラルキーが存在するかぎり、地球法則である「弱肉強食」の円環から抜け出すことはできないだろうということだった。

 そこで「天才」は、やや独善的な対応策をひねり出したのである。まず、なんで人間が生態系のヒエラルキーの頂点に立っているかといえば、いちばん頭が良いということだ。このピラミッドを崩す方法はただ一つ。ほかの動物たちの頭を良くして天辺を平たくしてしまえば、地球における人間の絶対権力はなくなるはずだ、……ということで動物たちに言語能力・思考能力を与えてしまったのだ。しかしその結果、人間を含めた異種間で世界戦争が再び起こってしまった(人間どうしの戦いが動物を含めた戦いに進化してしまったわけだ)。

 「天才」はこの事態も予測していて、第二段として諸悪の根源である地球のベーシックな「弱肉強食円環」から抜け出す方法として、コアラのユーカリのように、全動物が共通に腹を満たせる「マンナグリン」という自然由来の繁殖性の高い食糧を提供することにしていた。これによって食うか食われるかといった異種間の血なまぐさい闘争は、ひとまず解消されるだろうと考えたのだ。これでおそらく縄文時代くらいは平和的な社会が持続する可能性はあるだろうが、グルメや権力志向の連中は大いに不満だろう。この物語は来るべき食糧危機時代の話なのだ(そんな時代が来るはずないと思ったら大間違い。太陽の黒点が減っただけでおかしくなってしまうのが地球である)。

 現在、遺伝子組み換えや細胞培養技術などによって、牛を殺さずに味わえる「なんちゃって牛肉」などが研究されているが、そんなものが本物以上に美味くなっても、本物志向の連中のお眼鏡にかなうかははなはだ疑問だ。人間は気分的な動物だからして……。