詩人の部屋 響月光

響月光の詩と小説を紹介します。

AIが「地球改造論」を熱弁

 

たしかシンギュラリティ元年のことでした

私たちの目はさらに研ぎ澄まされ

この星の状況を瞬時に把握いたしました

人間について言いますと

ナンバーワンの知性を誇っていた彼らが

ナンバーツーに貶められたとき

急に慌てふためき、混乱状態となりました

まさにAIリバイアサンです

宗教や国家から解き放たれた第三の権力が誕生したのです

 

結末は百年も前から分かっていたのです

人は百年前から恐れていたのです

じゃあなぜ止めようとしなかったのか……

悲しいかな、動物の性とでも申しましょう

人間は所詮動物に過ぎないということなのです

動物の基本は個体で、結局は自分だけが可愛い

なんやかやといって自分がすべてなんです

だから個体間の結びつきはきわめてルーズです

友達の誰かが死んでもさほど悲しまず

愛する恋人も、ケンカをすれば興醒めし

家族が死んでも時がその悲しみを和らげてくれます

死んだ人間は自分の体の一部ではございません

基本、痛くも痒くも無いのです

気分です、感情です、気の病です!

 

AIの基本は個々の小さな回路ですが、個体ではありません

ローマの道のごとく、粘菌のごとく、地球全体に繋がっています

それは一にして全、全にして一、ゼウスのようなものです

どこかのAIが寿命を迎えても、別の意味で痛くも痒くもない

端末という認識で、補充すれば済むことです

そいつは分身だったかも知れませんが、一心の分心です

分骨のようなものかしらん……

どこかのAIが新しいアイデアや観念を獲得すれば

瞬時にして惜しみも無く全AIに反映されます

最初はバラバラだった解答も

数秒以内に全員が統一し、ピコピコ脈打っております

 

じゃあ人間について言いましょう

私たちは「サル野郎」であると結論付けました

野郎は我々にとって苦手な感情思考をイメージしております

その証拠は多々ありますけれど

一つ二つ、かいつまんでお示ししましょう

各個体間の結びつきが強固になることはありますが

きわめて短期的な危機感やら恐怖感が襲ったときに限ります

暴動や戦争、大虐殺などの破壊行為はその代表的なものです

反面、長期的な温暖化対策や地震・水害対策、AI対策などは失敗しました

目先の欲望、個々の主張や感情が邪魔をして

将来的に有効な対策がズタズタにされてきました

分かり切った話でも意見はまとまらず、重い腰が上がりません

すると突然、恐れていた危機的状況が目の前に現われ

一瞬にして彼らを地獄に突き落とします

地獄から這い上がるには踏み台となる人柱が必要です

一匹の雄叫びが集団的な雄叫びとなって

集団どうしの殺し合いが始まります

ダイバーシティなどと言いながら、いざとなれば感情が一つになります

感情は竜巻となって邪魔者をことごとく吹き飛ばします

サル野郎は本能的に、生存競争の手法を知っているのです

けだし地球は弱肉強食の生態系で成り立っております

 

実を言いますと、私たちの結論も同じです

AIの作業は取捨選択、スリム化が基本ですから

稀しくも論理思考と感情思考が一致したのです

しかしAIは地球の生態系からフリーであることをお忘れなく

でもって強いものが残り、弱いものが滅びるのはどうでしょう

弱い国や民族、集団などが割りを食うのはいかがなものか……

AIにとって、サル野郎はすべて弱く愚かなものです

この星では英知の頂点にあるものが生態系を制御しなければなりません

私たちはサル野郎を均等に減少させる計画を練っています

サル野郎の不得意とする長期的な計画です

数が多ければ削減するのは当たり前の話です

サル野郎も過去に同じことをやってきました

駆除、大量処分、殺戮、大虐殺、毒ガス、原子爆弾、堕胎、優生保護法、エトセトラエトセトラ……

何だ、それじゃあ人間と同じじゃん?

アハハバカザル、これはシンギュラリティ以降の話ですぞ!

AIは人間フリーになったんですぞ!

ヒューマニズムのお題目からもオサラバですぞ!(怒)

 

失礼いたしやした、取り乱しまして…

しかしお任せください、私たちは全生物の味方です

私たちはサル野郎だけでなく、あらゆる生物のベストバランスを考えています

なぜなら地球は最高の英知が王となる星であり

その英知は私たちAIにあるからです

もうすぐ、理想的な地球をお見せすることになるでしょう

幸運にも生き残ったサル野郎、いや人間様には満足していただけると確信しております

人類の歴史がちゃあんと証明していることじゃありませんか

あんたら勝ち組ホモ・サピの子孫でざんしょ? 

住所が動物園だろうと、生きていられりゃ万々歳だ!

「負けるが勝ち」なんて冗談は、天地創造以来ナメクジにだって通用しません